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まちの夕立屋さん
六時間目の授業はいつも眠くなる。「ここ、テストに出るからねー」、先生がチョークで黒板をこつこつと叩いたから、ぼくは慌ててノートにペンを走らせた。中学校に入って勉強はすこしだけ難しくなったけど、授業をちゃんと聞いているからテストで悪い点を取ることはなかった。この前のテストなんかは数学で九〇点を取って、お母さんにも「よくできたね」って褒められた。
教科書の問題を解き終えたころにふと顔を上げると、うしろの席の女子と話していたエリちゃんと目が合った。ぼくは顔が火を吹いたみたいになって、慌てて目を逸らした。もう一度エリちゃんのほうに目をやると、彼女は小動物みたいな笑顔を浮かべながら、さっきの女子との会話に戻ってしまっていた。ぼくはすこしだけ残念な気持ちになった。
エリちゃんはクラスの人気ものだ。休み時間はずっととなりに友達がいるし、班わけのときもみんながエリちゃんを奪い合っている。ぼくはあんまり話したことがないけど、その猫みたいな笑顔を向けられただけで心が軽くなり、空を飛んでいってしまいそうになる。
どうしたらエリちゃんと話せるようになるだろう。そんなことを考えているとき、ふと、学校近くの商店街にある夕立屋さんのことを思い出した。そうだ、今日はあの夕立屋さんに行ってみよう。
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