1-1 人生最後のデートだと思っていたのに/戸惑い

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1-1 人生最後のデートだと思っていたのに/戸惑い

初デートをするならどこへ行くか? 制服着たままの遊園地も、いい。 話題の映画を見に行ってから、カフェでおしゃべりというのも、面白そう。 水族館でイルカのショーを見るというのも、鉄板だと聞く。 もしくは、夜景が見えるレストランで、ロマンチックに過ごすのも素敵かも……。 そんな妄想をしていた時期が、かつて私にもあった。 だけど。 そういう、「デート」というものを教えてくれる雑誌やテレビの情報番組に出てくるのは、いつもどこでも美男美女ばかり。 すっと細くて、すらっと手足が長く伸びて、肌はしっとりつやつやで、髪の毛もサラサラ。 どんな洋服を着ていたとしても。 バッグを持っていたとしても。 髪型にしたとしても。 靴を履いたとしても。 場所にいたとしても。 そして、どんな表情をしていたとしても、そういう人達は第三者視点で見て、「画」として成立する。 全ての要素が揃うことで、「完璧なデート」というイベントになる。 つまり。 足は短くて、肌は脂っこくて、髪は癖っ毛。そして何より体重がもうすぐ90キロいくような私にとって、デートというものは現実ではなく、脳内で妄想して楽しむべきもの。 そんな風に諦めてしまったのは、もう10年も前……30歳を迎える、少し前。 友人達が婚活を本格的に始めると同時に、私はそういったレースから降りた。 違う、逃げたのだ。 毎回向けられる視線が、言葉に傷つくのに、もう疲れたのだ。 それならばいっそ、私なりの、それなりの人生を楽しもう。 そう、割り切ったつもりになっていた。 それなのに。 何故、40歳という年齢になった私が……。 不惑と呼ばれる歳になったはずの私が……。 「森山さん」 30代で努力して、自分の病院を開業したドクターで、論文を書けば、天才だと呼ばれる人が、誰もが一度は無意識に目を背けてしまう、私の顔と身体を、真っ直ぐに見つめてくれている。 そんな彼が、私の両手を自分の両手でしっかりと包み込みながら 「俺は、あなたのことを、守りたいと思っています。俺の恋人になってください」 と伝えてくれている。 ……何故、おとぎ話の王子様のような人が、舞台のセリフのような告白を私なんかにしてくれるのだろう? これは、夢? それとも……罠? 「お願いだ。答えを、聞かせてくれないか?」 こんな風に、熱を帯びた真剣な目で男性から見つめられたことがなかったから、私は何をどうすれば正解なのか、わからない。 もしも。 こんな幸せな申し出を、私なんかが受けてしまったら、罰として何か悪い事が降りかかるのではないだろうか。 今すぐ誰かに聞きたい。 教えて欲しい。 ……話は、数ヶ月前に遡る……。
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