船を出す

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「ふぁあーーー。あ?マコ?大きゅうなったなあ、この間までこんタバコの箱ぐらいしかなかったとに」 圭くんはぼくのことをマコと呼ぶ。 よれっとしたタンクトップにずり落ちた半パン姿。 尻をかきながらタバコをくわえた。 タバコ吸う前にやることがいっぱいあるんじゃないだろうか。 寝ぐせをどうにかする、とかゴミみたいなひげをそる、とか、顔洗うとか。 「圭!真に精霊船見せてやってくれろてさ、何か知らんけど。真、船のことは圭にまかせとるけん、圭に聞いてくれ」 治男おじさんには詳しいことはいまいち伝わっていないようだ。 「かまわんけど、おもしろかかなあ?そいよりマコ、川行かんか?海の方がよか?山でもよかけど暑かぞー」 圭くんにはもっと伝わっていない。 「圭くん。夏休みの自由研究せんばもう時間なかもん」 ぼくはそう言ってみたが、圭くんは不思議そうな顔をした。 「あ?まだ二十日もあるやっか。ってゆーか夏休みは遊ばんでどうする」 ぼくは圭くんみたいな大人にはならない、とひっそり心にちかう。 「もう!あんたたちは何ば聞いとったとね。真くんの今年の夏休みの自由研究は『精霊流しについて』にするとって。精霊船の作り方から始まって、歴史も教えてやって、あとは実際に流しにいって、最後流し場(ながしば)にたどり着くまでば記録するとよ。まかせとかんね、おばちゃんが写真とってやるけんねー」 千佐(ちさ)おばさんの趣味は写真をとることだ。 あ、そうだったんだ、とぼくは思った。 お母さんにさっさと送り出されたけど、正直何から手をつけるのかわからなかったのだ。 千佐おばさんはしゃきしゃきとした、やさしい人だ。 もしかしたら千佐おばさんが何でもできるから、治男おじさんと圭くんがあんな感じなのかもしれない、と思う。 fbdb170c-fa5d-4971-ab61-e06d3de4787f
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