船を出す

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圭くんは、さびだらけのガレージのシャッターを力任せに開けた。 そこには、車より小さいくらいの、木と竹でできた枠組みがあるだけだった。 枠組みには車輪がついていた。 周りには板や竹が山ほど積んであり、ゴザでぐるぐる巻きにされたラッパ型の部品が転がっている。 大きな箱にはちょうちんや造花がいっぱいつまっている。 「圭くん、これ……間に合うと?」 今日が八月十二日。 精霊流しは八月十五日。 「余裕余裕。マコも手伝うてくれるもんな」 むりっぽい。 だけど圭君は平然として、のこぎりで板を切り始めた。 釘を打つのもものすごく早い。 そしてあることに気づいた。 「圭くん、定規とかは……?」 「要らんそげなもん。人が乗ったりはせんしな、形さえできとけばよか……あ」 「どうしたと?」 「ここ、寸法余るなあ」 「だ、大丈夫?」 こんな人だとはわかっているけど、これは適当すぎやしないだろうか。 「問題なか。ここんとこは切り落とせば……あれ、こっちはちょっと足らんなあ」 「圭くん……」 「おお、この余りばここにくっつけてぴったり!計算通り!」 こんなに大ざっぱなのに、何となく船の形になってきた。 「圭くん、これ設計図とか組み立て方とかは?研究ノートに貼りたかとけど……」 「無か。全部(おい)の頭の中やけん」 ある意味すごいけど、もしかしたら、これ研究になりにくいんじゃないだろうか。 「マコ、そのみよし取って!」 「みよしって何?」 「そこのラッパのごたる(ような)やつ」 「よいしょ!何でこれみよしって言うと?」 ぼくは運びながら、圭くんにたずねてみた。 「ん、水押しって書くとやけどな。船の一番前、船首のことさね。船の顔になるとこ。島崎家ってうちの苗字書いてあるやろ?」 見たこともないような荒っぽい字だった。 それよりも圭くんがちゃんと教えてくれたことにびっくりして、話の内容が頭に入ってこなかった。 a0e3cae4-819b-4800-8e7b-9eb80c0e9d27
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