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八月十五日、精霊流しの日が来た。
朝からぱらっと雨が降って、ぼくは気が気じゃない。
「ねえ、圭くん。雨やったら中止になると?」
「いや、雨天決行。たぶん始まる時間にはやむばい。今まで中止になった記憶はあんまりなかけんなあ。こげん雨は亡くなった人のなみだ雨って言うとさ。じいちゃんのじゃなかと思うけど」
圭くんは空を見上げた。
じきに雨はやんだ。
船にはおじいちゃんの好きだったお菓子や果物や飲み物を積んだ。
不安だったけど、船はお昼までには出来上がった。
「上出来じゃなかかな?業者に頼めば何十万もするもん。マコがようがんばってくれた」
圭くんは、ぼくの頭をくしゃくしゃにしてほめてくれた。
こそばゆかったけど何だか嬉しかった。
正午には鐘が鳴って黙祷をした。
今日は終戦記念日でもあるそうだ。
「圭くん。あとは精霊船の歴史ば教えて?」
「えー、昼寝しようって思うとったとに」
治男おじさんと千佐おばさんは、いつの間にか消えていた。
「ちぇ、逃げられた!しょんなか。マコ、縁側に座れ」
圭くんは、ぼくに冷えたジュースを投げてくれて、自分はビールを開けた。
「夕方から精霊流しやのに、飲んでしもうて大丈夫?」
「こいは麦茶!ほら、麦茶って書いてあるやろ?」
麦酒と書いてある。
いつも圭くんはこんなふうだから平気なのだろう。
「そうな、歴史っちゅうても今江戸時代から生きとるもんはおらんけんな。はっきりは伝わっとらん」
最初からざせつしそうだ。
「たぶんな、目立ちたがりのモノ好きがお供えば船に積んで流した。そしたら他のもんも、俺も私もってマネしたっさ。そげなもんさ」
「えーー!研究ぽくなか、イヤーー」
ぼくがイヤイヤしたから、圭くんはまたしょんなかなあと笑った。
「江戸時代、日本は鎖国しとったやろ。その時に長崎だけは外国に向けて開いとった。日本に貿易とか通訳で来た中国の人が日本で亡うなってしまうこともある。その時に彩舟流しばして、亡くなった人の魂ば中国に送ってやった。そげんとが元になったとも言われとるな。どうや、研究っぽかろ?本当かは知らん」
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