船を出す

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「今年の自由研究何にしよっかなあ」 夏休みも、うっかり半分すぎてしまった。 そうだ、こんな時は必殺技の人頼み。 ぼくがテレビの前でゴロゴロしながらちらっと見ると、お母さんはぼくと目を合わせてくれなかった。 「(まこと)、六年生やろ?もう自分で考えんばよ、お母さん仕事忙しかとよ」 「お父さんは?」 「人ばあてにしなさんな。真の人生の中でお父さんがあてになったことはあったね?」 「うん、ない。あ、じゃ(けい)くんは!?」 町はずれで治男(はるお)おじさんと一緒に看板屋を営んでいる、いとこの圭くんなら、何とかしてくれないだろうか。 「アレはもっとあてにならんやろ?ずんだれのふうけもんののぼせもん(だらしがなくて軽くおばかさんで調子がいい人)やけん嫁さんも来てくれん」 治男おじさんとお父さんは二十歳近く年が離れているから、圭くんとぼくもそのくらいの年の差があるんだけど、圭くんはあんまり大人って感じがしない。 ペーロン(競漕)おくんち(長崎の秋の大祭)だ、と、祭りとなったら元気に飛び回っているけど、普段はいつもおじさんから怒鳴られるかどつかれるかしている。 「あ……でもそうね。真、お盆まで治男おじさんちに行ってこんね。あとでおじさんに話しとくけん」 「え?いきなりすぎん?」 「真、去年おじいちゃん亡くなったやろ。今年は初盆(はつぼん)やけん、精霊船(しょうろうぶね)ば出すとよ。看板屋さんで船ば作りよるけん、手伝わせてもらえばよか。作り方聞いて、精霊船作って流してくる!よか考えやねー、お母さん天才!」 お母さんは一人で盛り上がって、結局ぼくは何でそれが自由研究になるのかよくわからないまま、次の日から治男おじさんちに泊まることになった。 3e880e58-9db7-4450-be8e-898f072c7819
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