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「いらっしゃい」
扉を開けると、独特の空気に一瞬怯んだ。
淀んだ空気に漂う、酒と煙草の匂い。
まだ昼間だと言うのに、店内の奥から響く、笑い声や怒鳴り声。
自分の身の丈には、随分不相応なのは分かったが、入らないことには話は始まらない。
精一杯平気な振りをしてホールに足を踏み入れると、カウンターに肘を乗せ身を乗り出しながら聞いた。
「ねぇ、誰かいる?」
努めて慣れた風を装ったつもりだったが、きっとこちらがこういう店が初めてであることは、相手からしたら明らかなのかもしれない。
カウンター内に立っているママは、顔色一つ変えず、まるで値踏みでもするみたいに、頭の上から爪先まで、俺を舐めるように見た。
「お兄さん、初心者でしょ。
そしたら、あっち」
持っている煙草でついと指し示されたのは、店の喧騒から幾分距離が取られた窓際の席だった。
控え目な日差しが窓の装飾を抜け、床に模様を落とす。
その模様に囲まれるようにして、人影が一つ、窓の方に顔を向けて座っていた。
「あの…、いいかな」
席の脇に立ち、遠慮がちに声を掛けると、その人はこちらを向いた。
「……はい?」
声色の高飛車さに合う、初心者とは思えない程気の強そうな瞳。
肩の上で切りそろえられたサラサラなボブ。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
「……キミ、何処かで会ったことあるような気がするんだけど」
「はあ?ナンパ?
悪いけど、アタシはアンタみたいな弱っちいの、知らないわよ」
「弱っちいのはお互い様だろ」
思わず言い返した。
怒るかもしれない、と思って身構えたが、意外にも相手は素直に、
「まあ、そうね」
と、答えた。
「ねえ」
向かいのイスに腰掛けながら、もう一度呼びかける。
「何よ」
「俺本当にさ、何処かで会ったような気がするんだけど、キミと」
すると今度は、片眉を上げたものの、特に抗議はせず、しばらく沈黙が降りた。
そして…
「アタシも、そんな気がするわ、悔しいけど」
そう言って、ニッと笑った。
これはもう、ビンゴだ…と、思いかけ、待てよ?と自問自答する。
ビンゴって何だ?
今なんでそう思った?
自分の心の何処かで確かに生まれた感情の原因が分からず戸惑う。
けど。
きっとこれは、
運命ってやつに違いない。
「俺、ユウ。
Level1なんだけど、仲間になってくれないかな」
半ば確信を持って右手を差し出した。
その手が、ほっそりとした冷たい指に握られる。
「マホよ。
いいわよ、ヒマだし、一緒に行ってあげるわ。
Level1よ」
「あっ、ひでぇ。
自分だってやっぱり相当弱っちいじゃんか…いでででで!」
「何を急に叫び出すのよ、
しっかりしなさいよ、ユウ」
こうして、俺たちの旅は、『再び始まった』のである。
fin.
【注釈】
ユウ:勇者的なアレ
マホ:魔法使い的なアレ
この話:RPG的なアレがバグったときのアレ(しかもファミ○ン)
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