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隣人の生態
「あ…」
と聞こえた。
疲れ果ててやっとの事で部屋に帰り着いたのにいきなりこれだ。人の気配に上を見上げると天井板がギシギシと撓んでいた。
「ああ〜!もっと!」って。
「セックスすんなぁぁぁ!!!」
思わず短い箒を引っ掴んで天井の板をガンガン突いた。遠慮もクソも無い派手な喘ぎ声を……しかも男の「もっと」なんて聞かされてはたまったものではない。気を利かせて外に出るなんて出来るか馬鹿。
「あんた男だろ?!そこですんな!どこでもすんな!連れ込むな!天井が抜けて落ちてきたら殺すからな!」
ガンガンと天井を突いて周り怒鳴っているのに、返事は「イク!!」だ。
どうなってる。
俺は突いてるけど突いてない。
どんなモラルだ。
一応別の部屋って仮定だが、欠伸の息遣いさえ丸聞こえの共同生活をしているのに迷惑甚だしい。
ひとしきり暴れたが、どうやら男同士の絡みは中断する気配も無く、怒鳴り声と壁ドンならぬ天井ドンにも揺らがない。
タプタプとすごい速度で肌を打つ音はどんどん激しくなり、ゴツゴツと聞こえる鈍い音は絶対に柱か何かで頭を打ってる。
壁が軋んで振動が伝わってくるようだ。
怒鳴っても箒で突いても止まらない恥も外聞も無くしたいかがわしいやり取りは知性の欠片も無いのだ。
もう争う気力を無くして座り込んだ頃、相変わらず揺れは激しいが、聞こえてくる声がやがて引音だけになり、暫くすると静かなった。
死んだのか?って思った。
その後「最高だった」と知らない声が聞こえたけどね。
第二ラウンドでも始めようってのか、ねちっこくペチャペチャと舐め合う音も聞こえたけど。
ゴソゴソと蠢いているのは多分服を着ているのだと思う。やがて「またな」って知らない声とどこかに這うような音だ。
「帰るみたいだけど……」
実はロフトの出入り口がどこにあるかは知らないのだ。知りたくも無いし、どうでもいいけど廊下からは何も見えないものだから気になってはいた。
相手の男がどんな奴か、もしかしたらまだ見ぬ同居人がどんな顔をしているのかが窺い知れるかもしれないと、そうっとドアを開けて廊下を覗いてみた。
すると隣の部屋を越した階段前の廊下にスルスルと梯子が降りて来て、続いてにゅっと革靴を履いた男の足が出てきて驚いた。
「ってか……フロア全部の天井が繋がってんなら何で俺の部屋の真上なんだよ、出入り口に近い隣の部屋の上に住めよな」
階段を降りてきたのはパリッとしたスーツを着た普通の若い男だった。
変態的な要素は見当たらず、やさぐれた雰囲気も無い、清潔感すらある本当に普通の男だ。
「あれ?……」
屋根裏に住むという奇行プラス、話す声からロフトに住む住人は男であると思い込んでいたが、性別を見誤ったのかもしれないとの疑念が湧いた………見てないけど。
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