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友人のナシオが「人を愛せない」と告白した。
ヒロはその告白を並べて敷いた布団の中で真摯に受け取る。思い当たる節はいくつかあった。高校時代から異性に想いを寄せられがちなナシオだが、ヒロはその一方でナシオに浮ついた噂が立たないことを不思議に思っていた。
ナシオは恋愛ごとそのものに興味がないような素振りをみせ、仲間内で追及しても、さらりと話をすり替えしてしまう。当時ヒロには付き合っている相手がいたから、ナシオに深く関わらなかった時期もあり、すべてを知っていたわけではないが、それでもナシオにも意中の相手はいたはずだ。
その相手は現在のヒロの同級生であり、その相手もまた、ナシオに好意を抱いていたのである。
◇
高校を卒業してから四年。ヒロの仕事を手伝いにきたナシオが一晩泊まることになり、当日の朝、ヒロは部屋の片づけにおわれた。他人とのパーソナルスペースが極端に広いナシオは基本的に相手に本心を見せない。友人と呼ばれる間柄は片手に収まる程度だ。
そんなナシオが泊まりにくると聞いただけでヒロは嬉しくなり、掃除をする手にも不思議と熱がこもった。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
ヒロが客間に通すとナシオはさっそく手荷物を部屋の隅に置き、羽織っていた上着を丁寧に畳み始める。
「上着、掛けようか? ハンガー貸すよ」
「ううん。大丈夫」
ナシオはうつむきがちに笑う。その笑顔を可愛いと思い始めたのはいつの頃からだろう。
夕食を終え、ヒロが寝支度を整えている間に、風呂から上がったナシオが戻ってくる。春先とはいえ今年は例年よりも気温が高い。寝苦しい夜が続く毎日だ。
しかしそんな季節でも、ナシオはスウェットパンツに長袖のフード付きパーカーという着こんだ服装で現れた。高校時代からそうだが、ナシオは肌の露出を極端に嫌う。その理由を少なからず知っているヒロは何も言わずにペットボトルの水を差しだした。
「じゃあ風呂入るから、ナシオはゆっくり休んでいて」
「うん。そうだ、濡れたバスタオルどうしよう?」
「ああ、持っていくよ」
ナシオからバスタオルを受け取り、ヒロは自分の脱いだ衣服と共に、それを洗濯機に投げこんだ。
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