ナシオ

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「どっちもいける。性別も、上下も。でも絶対にやらなきゃいけないとは思ってないし、欲求不満になることもない」 「ふーん」 「ごめん……だから、ナシオのことは全部理解してあげられない」 「だよねえ」  ナシオは口元を引きつらせるようにして笑い、やがて自嘲に走る。痛々しくて見ていられなかった。 「なんでこう、うまくいかないんだろう。面倒臭い家に生まれて、常に良い子でいようって気をはって、進学して、ようやくこれからってときに病気になって、退学して、宙ぶらりんで……それなのに人間を愛せない欠陥まで見つかった。両親になんて言えばいいのか。薄々感づいてはいるだろうけれど、Aだってことは知らないし、そういう人間がいることも、ましてや自分の子供がそうだってことは考えてもみないだろうね」  もう話さなくていい。これ以上、自分を傷つけないでほしい。震えるその細い肩を抱いて、大丈夫だよと慰めてやりたい。だが、そんなことをすればナシオに嫌われてしまう。  ヒロはナシオのそばにいたかった。けっして嫌われるようなことはしたくなかった。 「……未来が見えない」  ナシオはヒロに背を向け、頭を覆ったフードをより深く被り直した。 「もうどうしたら、いいのか……わからない……っ」 「ナシオ」 「わから、ない……っ、わからない――っ、わか……っ」  目の前の小山が震える。泣いているのだ。あの気丈なナシオが、泣いているのだ。  ナシオはぐずぐずと鼻をすすり、ひくひくと嗚咽をもらしている。その姿は年齢よりも幼く見え、帰り道を見失った迷子の子供のように思えた。  ナシオの境遇はあまりにも理不尽だ。どうしてナシオばかりがこんなにも苦しまなければならないのか。ヒロの顔が歪む。どうにかしてナシオを助けてあげたい。 「ナシオ……」  ヒロはゆっくりと手を伸ばし、ぶるぶると震える小山を掛け布団の上からそっと撫でる。予想通り、ナシオはびくりと肩を揺らし、全身で拒絶を表したが、ヒロは撫でる手を止めなかった。 「大丈夫。全部吐き出せばいいから……」 「――っぅ……っ、うぅ……っ……」
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