君にさよならと告げた日

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 大学のサークルでバンドをやっていた榊は、社会人になった今でも、どこに行くにもヴィジュアル系バンドのような派手な出で立ちで現れる。切れ長の眼差しにアイメイクが映える中世的なルックスだ。女と見まごうほどの長髪にズボンの上からとはいえスカートを履いてきたこともある。  それでも就活の時期は人並みの恰好をし、社会人になった現在は学生時代ほどの奇抜さはないが、榊の髪は一般的な男よりは断然長い。 「髪はまた……切るから。でも、今話したいのはそれじゃなくて……」  榊が自信なさげにじわりと肩を寄せてくる。その肩が触れた瞬間、言いようのない嫌悪感に襲われた。  ぞわわ。ぞわぞわ。ぞわわ。ぞわぞわ。 「吉川?」 「あ……いや、何でもない」  何でもない、どころの話ではない。短いデートであったが、この言いようのない嫌悪感のせいで吉川は絶えず悩まされていた。  ――あんなに好きだったはずなのに、どうして。  吉川を悩ましていたもの、それは好きな相手であるはずの榊に触れられると、身体が硬直し、嫌悪感に見舞われることだ。  昔は平気だった。普通に接していたし、どちらともなく好き合って、デートをしていた時でさえ嫌悪感は湧かなかった。それなのに、なぜ。  高校時代が懐かしい。出会った頃、当たり前のように吉川はスカートを履き、榊はズボンを履いていた。吉川の髪は長く、天然パーマを褒められたことが自慢だった。当時から榊の髪は長かったが、校則に反しないように絶妙な長さを保っていた。  はたから見れば、ふたりは男女の関係だったかもしれない。  吉川が最も嫌いな言葉だ。  学校帰りにこっそりふたりで駅までの道を歩き、夕焼けをバックに橋の上でハグをした。  いつからだろう。  榊の背に腕を回せなくなったのは。  高校生だった吉川に違和感の正体はわからなかった。
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