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やっぱり大おばあちゃんにはかなわないなあと思いながら携帯から視線を外した百々は、いつの間にか香佑焔が消えているのに気づいた。
御守りの中に戻ったのだろう。
侵してはならない領分ならばもう聞かない。
でも、確かにあのとき香佑焔は――
香佑焔は私の足元で平伏していた――
誰に――あの店の何に――
「百々さん。」
「は、ひゃいっ!」
考え込んでいた百々は、浴室から出てきた天空に呼ばれ、咄嗟に裏返った声で返事をしてしまった。
その手の携帯を見て、天空は「電話中でしたか。申し訳ありません。」とぺこりと頭を下げた。
結婚しても、天空の話し方はまったく変わらない。
14歳も離れているのに、百々の担当となったあの頃と同じだ。
「大おばあちゃんに電話していただけです。お土産は芋ようかんがいいんですって。」
「有名ですからね。駅でも買えると思います。」
「じゃあ、明日は上野をたくさん歩いた後、お土産を買いましょう。」
「そうですね。」
百々は、もう今夜の居酒屋のことを考えるのはやめることにした。
曾祖母から釘を刺され、香佑焔を困らせることになるのなら、追及しない方がいい。
しかも、明日帰宅するまでは天空と二人だけの新婚旅行なのだ。
お湯をいただいてきますねと、百々はバッグの中から着替えを出して洗面所に向かった。
ディナーのあとの料理に、お腹がちょっとはちきれそうというのは内緒で。
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