開店

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買い出しを終えて、ふと籠の中を確認すると、やはり買っていないはずのものが入っている。 「今日はウカさんが来る日か。」 ウカさんの好きな油揚げ。 しかも、栃尾の油揚げという普通の油揚げより大きく厚みもあるものだ。 表面をさっと焼いて、薬味と醤油で食べるのもいい。 間に様々な具を挟むことも出来る。 ピザ風にもアレンジができる、俺にとってはありがたい食材の一つだ。 さて、今日はどんな風に調理しよう。 そして、ウカさんが来るということは、珠美さんたちは来ないってことだな。 神気を感じ取って、珠美さんたち妖怪は、ウカさんやタカさんたち神様が来店するとき遠慮してしまう。 ・・・その割に、お地蔵さんのときに遠慮するのを見たことがない気がする。 お地蔵さんもそれなりの気を放っていそうなんだがな。 そんな皆さんが遠慮する中、全くものともせず気も遣わずやってくるのが1人。 このパターン、どれくらい続いているやら。 俺はいつも通り店に戻って下ごしらえや店内の掃除を始めた。 閉店時に軽く清掃をするとはいえ、お客さんを迎えるのに清潔であるに越したことはない。 亡き祖母ちゃんから相続した質屋を改装したこの居酒屋も、もうかなり古くなっている。 幾度か手を入れたけれど、果たしてどれくらい持つものか。 駅前から少し離れ、メインの大通りから一本外れた通りのさらに路地を入ったところにある店なので、何年経っても客は増えない。 人間の客は。 人間じゃないお客さんが多い現状はかつてと全く変わっていない。 さて、今日のつき出しはきのことザーサイとモヤシを使ってごま油で炒めて、と。 ご飯は炊き込みも作っておくか。
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