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それは、百々が東雲と結婚式を終えて数日後のこと。
「大おばあちゃん、呼んだ?」
百々は、曾祖母の四屋敷一子の自室を訪れた。
百々の結婚式に車椅子で出席した一子は、翌日からほとんど自室に籠るようになった。
食事が三食すべて自室、入浴やトイレは式神や百々の母の七恵の力を借りながらまだどうにか動けるが、それ以外は自室から出てくることがなかった。
心配する家族に一子は「ちょっと疲れが出ただけですよ。」などところころ笑ったが、以前と比べると明らかに体力が落ちていた。
そんな一子が百々を呼びつけたのだ。
「百々ちゃん。あなた、新婚旅行行ってらっしゃいな。」
「うーん、そこは天空(そら)さんと話し合ったんだけど、すぐには無理かなって。」
夫の四屋敷天空、旧姓東雲天空は、警察官である。
公務員なのである意味結婚後の休暇は保証されているのだが、どちらかというと百々の方が渋っており、天空も特に強く希望しなかったので、式の翌々日から天空は出勤していた。
「だって、私は毎日お散歩しないといけないでしょ。無理無理。」
少なくとも一日一度。
百々は必ず決まった道順で外を歩く。
それを百々も周囲も「散歩」と言うが、四屋敷を起点にぐるりと回り四つの辻を通ることで、この地を護り四つ辻の地下深くに封印された「何か」を浄化し続けている。
これは四屋敷の当主の代々の職務で、これまで一度たりとも途切れたことはなかった。
「無理なんかじゃありませんよ。朝、歩いた後にお出かけして、翌日の夕刻に戻ってまたまわればいいのですもの。それに、私もまだ外に出られますからね。」
「大おばあちゃんはゆっくり休んでいてよう。」
外に出ると言う一子に、百々は焦って制止しようとした。
しかし、一子はおかしそうに笑うばかり。
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