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「お会いしたのは一度だけ。あれからどれくらい経ったかしら。20年にはならないと思うのだけれど。」
そんな昔のお店ならもうやっていないのではないかと百々は思ったのだが。
「この方ねえ、律儀に毎年年賀状をくださるのよ。一度できたご縁というものは、途中で切れるものもあれば細くとも長い時を繋がって渡っていくものもある。この方とのご縁もそういうものなのでしょう。」
20年にはならないというと、それでも10数年ということなのだろう。
百々は、一子がそんなやりとりをしているとは知らなかった。
「ちなみに、どうしてこの居酒屋のお店の人と出会ったのか聞いてもいい?」
「ほほ。もちろんですとも。ただ昔のことなので、はっきり思い出せるかどうかわかりませんけれど。」
一子は茶ではなく白湯をゆっくり口に含んだ。
「この方、以前会社務めをされていたのですって。そのときの同僚だか後輩だかが結婚式を挙げられるということでお式に参列するためにわざわざ東京からこちらに来て、神社にいらっしゃったのよ。」
神社ということは神前結婚式だったのだろう。
一子が同じ式に出ていたとは思えないので、偶然その神社に居合わせたのかもしれない。
だが、どこの誰の式ともしれぬものに参列しに来た人間と、そこまで親しくなるものだろうか。
百々にはまだ話が見えてこない。
「披露宴の後だったのかしらね、あのときは。外でお見掛けし声をかけたのですよ。」
「なんで?何か特別な人だったの?居酒屋で働いているけれど、神社に何か関係があるとか?」
「いいえ。東京で小さな居酒屋を経営されていらっしゃるのですって。ただ、そう、何だか変わった空気を纏われている方と言えばいいのかしら。」
一子の言い方ははっきりしない。
でも、そういうことはよくあることで、ヒントのようなものを細かくちりばめておき後から種明かしをするようなことは日常茶飯事だから、そこも百々は気に留めないようにした。
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