第三一話 幸せの聖花祭

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 時間はあっという間に過ぎて、気づけば夕食の直前になっていた。カーテンは既に閉めてしまったので外の様子はうかがえないが、夜の気配は感じられた。 時間をかけた甲斐あって、靴下は無事、必要分編み終えた。 「お疲れ様でしたー!」 「お疲れ様です」 「お疲れ」  達成感に満ちた顔で三人は手を叩きあった。側にいたラナも慈乃達の真似をして手をぺちぺちと叩いていた。 「どうにか間に合ったね。これで聖花祭の準備はあらかた終わったってことになるのかな」 「そうだな。後は当日のプレゼント配りと夕飯作りくらいじゃねえ?」 「じゃあ、後は本番を楽しみに待つだけかぁ」 ウタセはほっと安堵の息をもらし、スギナは僅かに表情を緩ませた。 慈乃はというと準備が終わったことに安心してはいたが、それ以上に初めて迎える聖花祭の当日が楽しみでならなかった。まるでクリスマスを待ち遠しく思う小さな子どものようだと思うがわくわくが止まらない。 「シノは聖花祭が楽しみなんだね」 「え……⁉」  そんなにわかりやすかっただろうか。慈乃は恥ずかしさから桃色に染まる頬を両手で押さえた。そんな慈乃を見て、ウタセは軽やかに笑った。 「あはは。顔に書いてあったよ」 「……それは、あの、聖花祭が初めてだからで……」 「素直でいいじゃない。僕だって未だにわくわくするしね。スギナもそうでしょ?」  恥ずかしがって否定するかと思いきや、スギナは意外にも素直に頷いた。 「まあ、そうだな。聖花祭って何が起こるかそのときになってみねぇとわかんねぇし」 「そういうこと。準備も頑張ったし、いい日になると嬉しいなぁ」  ウタセはちらりと完成した靴下の山を見遣った。努力の証でもあるそれらを慈乃もまたそっと見つめるのだった。
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