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その日の夜。
夕食の後片付けをニアとともに済ませ、三階の自室へと戻ろうとした慈乃は廊下の反対側に動く影を見つけた。じっと目を凝らすと厚手の上着を羽織ったツクシが玄関から外に出ようとしているところだった。
(こんな時間に外へ……?)
訝しんだ慈乃はツクシに小走りで駆け寄ると声をかけた。
「ツクシくん」
「びっくりした~。シノちゃんじゃな~い」
言葉の割にはあまり驚いていなさそうないつもの間延びした口調だったが、その若草色の目はしっかりと丸められていた。
「ど~したの~? 何かボクに用事~?」
「いえ、外に出るようだったので気になったものですから、つい……。ツクシくんこそ、こんな時間にどうしたのですか。今時分の外は冷えますよ」
「心配してくれてありがと~。そうだ、なんならシノちゃんも一緒に行く~?」
「え?」
まさか誘われるとは思っていなかった慈乃は呆けた声をあげる。ツクシはそれすらも愉快そうににんまりと笑った。
「うん、決まり~。ボク、ここで待ってるから~、シノちゃんも厚着しておいで~」
「は、はあ……」
慈乃が断る可能性など微塵も想定していないような口ぶりのツクシに、シノもまた流されるように頷いたのだった。
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