第三一話 幸せの聖花祭

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 ツクシに言われたように慈乃が厚着をして玄関前に戻ると、ツクシは「れっつご~」と早速外に向かって歩き出した。慈乃も遅れないようについていく。  目的地を聞きそびれたが、それもすぐにわかった。  正門を潜り、目の前に広がる花畑。そのただなかを流れる表面の凍った小川のほとりにスギナが座り込んで夜空を見上げているのが夜闇のなかにぼんやりと見えた。  慈乃もスギナと同じように視線を空へと滑らせる。  新月なので月はないが、澄んだ空気も相まって夜空に散りばめられた星々がいつも以上に輝いているように感じられる。  慈乃がそうしている間にも、ツクシは構わずスギナのもとへと近寄った。 「ス~ギナ~」  気配で察していたのだろうスギナにあまり驚いた様子は見られない。ちらりと側に立つツクシとその後ろに控える慈乃を見ただけで、スギナは再度夜空に視線を戻した。 「なんか用か?」 「ん~? 語らいに来たんだよ~」  ツクシはそう言いながらスギナの隣に腰を下ろした。慈乃もツクシに手招かれたので彼の隣に座る。やや湿った下草は冷えていて、慈乃は身を縮こまらせた。 「からかいに来た、の間違いじゃねえの?」 「またまた~、そんなこと言って~。ボク達同期の同僚じゃ~ん。語りたいこともたくさんあるよ~。ね~、シノちゃ~ん」  突然話を振られて戸惑った慈乃だったが、ツクシの言にも一理あるとぎこちないながらも頷きを返した。  ツクシはともかく、慈乃まで無下にできないのだろう。スギナは嘆息すると顔を慈乃達の方へ向けてきた。 「で、語りたいことって?」 「あはは~、なんだろ~ね~」  暗くてよく見えないがおそらく呆れ顔だろうスギナに対して、ツクシはのんきに笑うのみだ。スギナは今度こそわかりやすいため息をついた。 「やっぱりからかいに来ただけじゃねえか」 「いやいや~、そんなことないよ~? ほら~、シノちゃんもいるし~」  二対の瞳がそろって慈乃に向けられる。慈乃も特に何かを考えていたわけではないので言葉に詰まるが、『じゃあ帰ります』とは言えない。慈乃は頭を働かせて「では……」と呟いた。
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