第三一話 幸せの聖花祭

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「スギナくんはどうしてこんな時分にここへ?」 「ってそんなことかよ。まあ、いいけど……。有り体に言えば気分だな」  冬の夜は空気が澄んでいて星がよく見える。その上今日は新月だから、星々の輝きがより一層美しく冬空に映える。そんな景色が見たい気分だったのだとスギナは語った。  再度顔を上げたスギナに倣うように慈乃も星空を見上げる。確かにスギナの言う通りだと思った。その美しさに目を奪われていると、反対にスギナが慈乃に質問してきた。 「シノの故郷でもこんな風に星が見えたか?」  先日の写真整理のときに慈乃が過去の出来事を話したからだろう、今まではあまり慈乃の元いた世界のことには触れてこなかったスギナが珍しくそんな問いを投げかけてきた。  慈乃は記憶の中の星空を思い浮かべながら、考え考え答えた。 「見えるには見えましたが……。ここより空気はきれいではありませんでしたし、こんなにきれいには見えなかったと思います」  あくまで慈乃の主観だ。思い浮かべた夜空は慈乃がまだ高校生だったときのもので、記憶に新しい方ではあったが当時は心の傷も深かった。そんな心持ちで見る夜空が本当はどんなものだったのか今ではもうわからない。  スギナは「そうなんだ」と相槌を打った。そして白い息を吐きだしながら、呟いた。 「なんか不思議だよな。シノの故郷とここは似てるけど違うところも結構あってさ」  慈乃とスギナに挟まれて座るツクシもうんうんと頷いた。 「そうだよね~。言葉も文化も生態系も違うのに、花や空は共通してるんだもんね~。ボクも見てみたかったかも~、シノちゃんがいた世界~」  現代日本の街並みに今の格好のツクシがいるという光景はなんだかちぐはぐで想像しがたい。慈乃は思わず苦笑いを浮かべた。 「あ~、今笑ったでしょ~。それも苦笑い~」  夜闇の中で顔ははっきりとは見えないはずだが、ツクシは的確に慈乃の表情を言い当てた。もしかしたら息づかいから感じ取れたのかもしれない。 「す、すみません。ツクシくんに都会の光景はあまり似合わないなぁと思ってしまって……」 「都会って~?」 「あ、オレも気になる」  首を傾げるツクシに、僅かに身を乗り出すスギナと二人は興味津々だ。
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