第三一話 幸せの聖花祭

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 思えばこちらの世界で都会というものは聞いたことがなかった。以前、ウタセに聞いたところによると、どの番地も同じくらい栄えており、中央の教会に近づくにつれて街は賑わっていくという。そういう意味ではこの世界の都会とは街を指すのかもしれない。  そんなことを頭の片隅で思いながら、慈乃はすっと目を閉じる。そして離れてから一年と経たない世界にまだ慈乃がいた頃、当たり前だった景色を眼裏に描いた。  慈乃の生活圏は自然が全くないわけではなかったが、人工物の溢れた世界だった。贅沢な話だとは思うが、人工物の恩恵に与りながらも、慈乃にとってそんな世界があまり美しくは思えず、生い立ちのせいもあってあまり好きでもなかった。  その世界には妖精の代わりに人間がいた。今思えば人間も妖精も大差ないと思うが、当時の慈乃にとって人間は恐怖の対象であった。  都会とはそんな人工物と人間の集合体とも言える。慈乃はそのように思っていた。 「私の主観も大いに反映されていますが、そんなところでしょうか。もちろん都会を楽しいところだという方も大勢いますが……私の性には合わなかったですね。私はこちらの世界や街の方が好きです」  慈乃がひとしきり話し終え、息を吐くとスギナが「へぇ」と感嘆の声をあげた。 「話を聞く限り、オレも都会は合わなさそうだな」 「スギナは静かなとこの方が好きだもんね~」 「でも賑やかな子ども達の相手は楽しそうにしてますよね」  慈乃が指摘するとスギナはそっぽを向いた。おそらく気恥ずかしいのだろう。 「それはそれだろ。賑やかにもいろんな種類があるじゃねぇか」 「まあ、そ~だね~。賑やかといえばこの間ね~」  ツクシが話題を自然に変える。今度は学び家の子ども達のことだった。 「ガザくんとトゥナくんとソラくんが~、お泊り会をやったみたいなんだけど~。うるさすぎてスイくんとリンくんに怒られてたんだよ~」 「ついにリンドウも加わったのか……。ガザとトゥナも懲りねぇな。ソラルには同情する」  そんな何気ない日常のことを満天の星空の下、語り合う。  星々のきらめきのように、この一瞬もまた輝いていた。
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