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互いの近況や今の学び家の様子を話しながらの昼食の時間は実に賑やかなものだった。
「そっかそっか。じゃあリンドウくんとは今は仲良くやってるんだね」
「はい。ソニアちゃん達のおかげですよ」
話は聞き及んでいたらしいアキレアは慈乃の隣でうんうんと頷いていた。
「まさかこんな形でウィルの反抗期が役に立つなんてね」
そのアウィルはというと苦い顔をしていた。
「役に立ったのはいいっすけど、オレの反抗期のことは忘れてほしいっす……」
「『オレに触れると火傷するぜ』」
「いやだから、そんなこと言ってないっすってば!」
ソニアによる反抗期時代のアウィルのものまねにアウィルはすかさずつっこんだ。アキレアはアウィルをフォローするどころか反対に「あ、似てるかもー」と言ってソニアと笑い合っていた。そんな様子を見て慈乃もまた微笑む。
学生時代に同級生とはこんな風に過ごせなくて、そんな自分に慈乃は落胆していた。けれどもその時間を埋めるように、埋めるどころか溢れるくらいに、ここには慈乃が憧れていた時間がある。
(私は幸せ者ね)
慈乃が物思いに耽っていると、話題を変えたいアウィルが慈乃に話を振ってきた。
「オレの話なんかより、もっと面白いことしないっすか⁉」
アウィルの必死な様子に慈乃はやや身を退きながら「面白いこと、ですか……?」と首を傾げた。
「そうっす! そもそもここに集まったのもこれをやるためだったんすから」
「そういえばそうだったね」
「いっけなーい! 忘れてたー!」
慈乃以外のこの場の三人は『面白いこと』の内容を知っているらしい。戸惑う慈乃にソニアがずいっと顔を寄せた。
「ずばり! タイムカプセルだよ!」
「未来の自分に手紙を書いて、このあたりに埋めようって。ね、面白そうじゃない?」
秘密基地にタイムカプセル。なんだかわくわくする取り合わせだ。
慈乃は「やってみたいです……!」と目を輝かせて頷いた。
「決まりっすね。そんなら、紙と鉛筆はこれで」
アウィルがバッグの中から紙と鉛筆を取り出した。慈乃はそれを受け取りながら尋ねる。
「未来とは何年後くらいがいいでしょうか?」
受け取った鉛筆をくるくる回しながらソニアが答えた。
「そうだねー。とりあえず一年後とかでいいんじゃないかな。あんまり未来過ぎるとタイムカプセル埋めたことを忘れそうだし?」
「そうだね。じゃあ一年後の自分に宛てた手紙を書こうか」
慈乃は頷くと手紙の内容を考え始めた。メリルとカルリアとのお手紙交換は今も続いていて手紙を書くことには慣れていたが、自分に宛てるとなると何を綴ろうか困ってしまう。
(一年後の私はどんな感じになっているのかしらね)
この世界に来てまだ一年と経っていないのに、慈乃には自分が大きく変わったという自覚がある。振り返ってみれば一年はあっという間かもしれないが、その間の経験によりひとは変わるのだ。
宛先である一年後の自分は一体どんな風に変わり、何を考えてこの手紙を読むのだろう。そんなことを考えながら、慈乃はゆっくりと文章を綴り出した。
慈乃はすっかり夢中になって手紙を書いていた。気づけば書きたいことが次から次へと湧いてきて、何枚もの紙がびっしりと言の葉語でいっぱいになっていた。
慈乃が鉛筆を置くと、ソニアが横からひょっこりと顔を出した。
「シノちゃんも終わった?」
顔を上げるとどうやら三人とも既に手紙を書き終えているようだった。
「すみません。お待たせしてしまいましたよね」
「いいのいいの。こんなに夢中になってくれるなんて、むしろタイムカプセルを提案した甲斐があったよ」
ソニアが差し出したお菓子の空き缶には三通の手紙が入っている。慈乃がその上に自身の手紙を置くと、ソニアはぱたんとふたを閉めた。
「ウィルくん、アキくん! 準備できた―?」
アウィルとアキレアは野原の端の方で屈んでこちらに背を向けていたが、ソニアに呼ばれることで振り返った。
「いいっすよー!」
「よしっ。行こう、シノちゃん」
「あ、はい」
ソニアとともにアウィル達のいる方へ向かうと、そこには穴が掘られていた。大きさはちょうど手紙を入れた空き缶が入りそうなくらいだ。
「じゃあ、入れまーす!」
「はーい」
ソニアが持っていた空き缶を穴の中に置くと、アキレアが上から土をかぶせて空き缶を覆い隠した。
「来年の聖花祭に取り出そうね!」
「はい。楽しみですね」
「うんっ!」
そうこうしているうちに空が橙色を帯び始めてきた。冬の日は短く、時間にすると午後四時くらいだろうか。
今晩は聖花祭に因んでニアがいつもより気合いを入れて夕食作りをすると聞いていた。慈乃もその手伝いをすることになっている。
「あ、時間……」
慈乃の呟きをソニアは聞き逃さなかった。
「シノちゃん、もう学び家に戻る時間? ニア姉さんの手伝いするとかって言ってたもんね」
「はい。私は帰りますが、皆さんはどうするのですか?」
慈乃が振り返るとアウィルとアキレアは顔を見合わせていた。
「もう少し祭を見て回るっすか?」
「そうだね。夜の聖花祭も見ものだしね」
慈乃は頷くと、途中まで送るというソニア達の申し出を断って学び家への家路を辿った。日が落ちるのは早く、慈乃が学び家に着くころには空はすっかり闇色に塗り替わっていた。
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