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№13
私は聴きながらほほ笑んで何度もうなずく。
さっきのアヒージョの話っていったい何なの! 論理的って知ってる? 脳内で叫ぶ。
料理が運ばれて来た。
「ガシャーン」
店員がビールグラスに袖を引っかけ、床に落とした。不運なことにスワさんのスーツを汚してしまった。
「す、すいません」
「ちょっと、何やってんの? 早く拭けよ!」スワさんは声を荒げて命令する。
私は店員が可哀そうになって、ごめんなさいを連発しながら一緒に拭いた。
「ヨシヤ?」騒がしい店内にもグラスの割れる音が響いて目を引いたのか、女性が声をかけてきた。
そっか、スワさんってヨシヤって名前だったのかと、黙ってスワさんの洋服を拭き続ける。
「マ、マ、マミ」スワさんがつぶやく。私はパッと振り向いて女性を見た。マミだ。
「ここで何してるの? へぇ、あたしとケンカしたのもこれのせいなの?」と私を指さしている。
「さかぁ……」
「それにイズミん、残業だったんでしょ? あたしの彼氏と何してんの?」
彼氏ってスワさんの事だったのか。私はおしぼりを持ちスワさんの足元の床に膝をついていた。
店の騒めきだけが聞こえて、私たちの時間は止まっている。
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