第一章 出会い

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あれから私は律くんと話すようになっていた。 学校で会ったことやちょっとした相談まで律くんは真剣に聞いてくれる。 気づけばそんな関係は半年ほど続いていた。 「もうすっかり冬だね」 「寒いのにお前は元気だなぁ」 寒空の下でいつものように話していれば、どことなく律くんの雰囲気が固いような気がした。 「どうしたの?」 「雫に、言わないといけないことがある」 何だか嫌な予感がした。 静かに口を紡ぐ。 冷たいものが空から降ってくる。 「俺さ、順番が来たから行かないと」 「……もう会えなくなる?」 律くんはこくりと頷いた。 その頷きにどうしようもなく悲しくなってしまう。 半年、話していただけなのに。 別れがとても悲しい。 いつかこうなるとわかっていたのに。 俯く私に律くんは穏やかに笑う。 「そんな泣きそうな顔するなよ」 「……うん」 返事をしながらもボロボロと涙が溢れてきてしまう。 嗚咽を漏らせば、律くんも悲しそうに顔を歪めた。 「泣くなよ……。俺まで悲しくなるんだよ」 「だ……って、」 何でこんなに悲しいのかわからなかった。 別れが悲しいのはわかる。 幼稚園の年少の時、引越しをした。 その時は友達と離れるのが寂しくて泣いてしまった。 でも、それからは友達との別れで泣くほど悲しいと思うことはなかった、なのに。 寂しい。悲しい。 泣きたくって仕方がない。 「雫」 「うん?」 顔をあげると、律くんは堪えるように笑っていた。 「絶対に迎えに行くから」 「いつ来てくれる?」 「それは……わからない。でも、絶対にいつか」 そう言う律くんに私は泣きながらも最後に笑顔をつくった。 雪は私たちを見守るかのように降り積もっていった。 ーー 「はあ、さっむ」 もしかしたらあれは初恋というものだったのかもしれない。 私はもう十八年も前のことを思い出し、一人苦笑した。 あれから律くんに会ったことはない。 まあ、そうだろうなと思う。 別に気にしてないし、定期的に不思議な体験だったなと懐かしむ程度だ。 私は社会人になり、労働環境のいい職場で生き生きと働いている。 「今日は早く帰れたし、どこか寄っていこうかな」 カフェでお茶するのもいいし、本屋にも寄りたい。 私はそんなことを考えながらのんびりと歩いていた。 「……雫?」 そんなことを呟く人がいたことも知らずに。
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