第一章 出会い

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第一章 出会い

これは、何年も前のお話。 その頃、私は小学校一年生だった。 まだ大きく感じる赤いランドセルを背負って雨の日に家に向かっていた時のこと。 友達とは途中の道で別れてしまうため、一人で人気の少ない裏道を歩いていた。 水たまりに雨粒がおちて、ポツリと音をたてている。 買ったばかりの水色の傘をクルリと回していると誰かに「おい」と声をかけられた。 「え?」 「これ、落としただろ」 振り向けば、そこにはいくつか年上であろう男の子が立っていた。 黒色のパーカーを着た男の子は黒色の髪に雪のように白い肌で切れ長の目をしている。 手にはランドセルにつけていたはずの風鈴の形をした猫のキーホルダーがあった。 「あ!」 気づかないうちに落としていたことに声をあげれば、男の子はキーホルダーを渡してくれた。 「今度は落とすなよ」 「ありがとうございます!」 ペコリとお辞儀をすれば、男の子は照れくさそうに笑った。 「これ、可愛いな」 「うん!友達が誕生日にくれたの!」 「よかったな。じゃあ、尚更落とすなよ」 子供に言い聞かせるような口調に「はーい」と返事をした。 その日の夜。 男の子のことを思い出して私は不思議に思うことがあった。 どうして傘もさしていなかったのに濡れていなかったのだろうか、と。 次の日。 昨日と打って変わって晴天でいつも通り帰り道を歩いていると、男の子が一人で立っていた。 声をかけようか迷って少し手を振れば、男の子は私に気づいたのか微かに笑みを浮かべて手を振ってくれた。 「昨日はありがとうございました。ええっと、誰、ですか?」 私がそう聞けば、今度は可笑しそうに笑った。 「俺の名前は律。お前は?」 お母さんの知らない人に名前を教えちゃダメよ、という言葉を思い出す。 でも、男の子ーー律くんは小学校三年生か四年生くらい。 同じ学校の子に名前を聞かれたと思えば別に大丈夫だろう。 「私の名前は雫」 「雫、か。だから昨日あんなにルンルンだったのか?」 律くんの言葉にうーんと首を傾げる。 「雨より晴れの方が好きだけど、嫌いじゃないよ」 「そこは好きだって言えよ……」 律くんが呆れたような顔をして座る。 何も無いところに。 私はその光景に目を丸くした。 空気椅子をしている訳では無い。 だって、足が浮いているのだから。 「どうやってるの?」 驚いて聞けば、律くんは私に向かって手を伸ばした。 しかし、私に触れるとスカッと律くんの手は私を通り抜けた。 「俺は幽霊。何年も前に死んだんだ」 「ユーレイ……」 律くんの手に触れようとすれば通り抜けてしまう。 「俺は頑張んないと物に触れられない。人には頑張っても触れられないし」 「じゃあ頑張ってキーホルダー拾ってくれたんだね。ありがとう」 情けなさそうな律くんに何度目かのお礼を告げる。 すると、律くんは私のほうをじっと見た。 「……雫は俺が幽霊だって信じてくれるんだな」 「うん。幽霊は信じてないけど、否定はしてないから今だけ信じる」 「今いくつだよ……」 神妙な顔の律くんに「小一だよ」と言えば、「背ぇ高いな」と返される。 「俺さ、何故か雫にだけ見えるらしいんだ。だから、待ってる間たまに声かけていいか?」 律くんが何を待ってるのかは知らない。 でも私は、「いいよ」と言った。
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