私のヒーロー

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 何の変哲もない一日のはずだった。  立っているだけで汗が噴き出る様な暑さでの中で、いつも通りに学校に行って。  夕方になっても変わらない暑さに辟易としながら、いつも通り帰宅して。  お気に入りのソーダ味のアイスを食べてから、面倒臭い宿題を片付けて。  クーラーが当たる所に椅子を移動させて、そこで漫画を読む。  窓を閉め切っているはずなのに、うるさいくらい聞こえる蝉の声とお母さんが夜ご飯を作る音。それをBGMにして、ひたすらページを捲っていた。  電話が鳴ったのはそんな時だった。  生活音を切り裂くように鳴り響いたそれに一瞬身体が跳ねて。漫画から顔を上げる。急いで手を洗って、ぱたぱたとスリッパで電話に駆け寄ったお母さんを何となく眺めた。 「……はい。高原です」  余所行きの少し高いお母さんの声を聴きながら、電話の相手を予想する。  おじいちゃんか、お兄ちゃんの通っている塾の先生か。それともセールスだろうか。固定電話にかけてくる相手は、私にはそれくらいしか浮かばない。 「……はい、いつも主人がお世話になっています」  なんだ。お父さんの知り合いか。  それなら特に面白いこともないだろうと、漫画に視線を戻そうとして。 「……お母さん?」  受話器を持ったまま、呆然と立ち尽くすお母さんに声を掛ける。壁を見つめたまま動かないお母さんには聞こえていないようだった。  その尋常じゃない様子に、立ち上がろうとして。 「お母さん!?」  ぐしゃりとお母さんの身体が崩れ落ちた。  漫画を放り出して駆け寄る。がたがたと震えるお母さんの顔を覗き込んで驚いた。お母さんが泣いている。 「お母さん! どうしたの!?」  泣き続けるお母さんの肩を掴んで揺らしても、嗚咽を零ぼすばかり。どうしていいか分からず、お母さんの横に座り込んでいれば。ばたばたと大きな足音がして、お兄ちゃんがリビングに駆け込んできた。 「どうした!?」 「お、お兄ちゃん。お母さんが」  私達を一瞥したお兄ちゃんが、お母さんが持っていた受話器を取った。 「すみません。母が話せる状況ではないので、電話を変わりました。……はい、息子の宗太です」  少し強張った声で電話に出たお兄ちゃんの顔から、どんどん血の気が引いていく。お母さんの様に泣かなかったのは、そうしなければと言う責任感からだろうか。 「……はい。これから向かいます。よろしくお願いします」  電話を切ったお兄ちゃんの顔が歪む。泣くのを堪えるかのように眉を顰めて唇を噛み締めていた。 「お、兄ちゃん。何があったの……?」  見た事がない二人の様子に怖くなる。冷たいフローリングに座り込んだまま問いかければ、お兄ちゃんの口が躊躇う様に、ゆっくりと開かれた。 「……お父さんが、死んだ」
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