第一章. 残された夢

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第一章. 残された夢

〜鹿児島県国文市〜 夏 妻、由貴子の49日の法要を済ませ、仏壇の前で笑顔の写真を見つめる。 斉藤和義(61歳) 子供も兄弟もなく、今は独り。 運送会社を定年退職し、妻とキャンピングカーで日本一周の旅をするのが夢であった。 しかし、定年間近の折。 妻の末期癌が分かり、一年間の闘病の末にこの世を去った。 「由貴子、これから私はどうすればいい?」 自然に涙が頬を伝う。 二人で生きた30年が、唯一大切な財産である。 ふと思い立ち、妻が愛用していた鏡台の引き出しを開ける。 一度も見たことのない、妻の空間。 そこには、二人で撮った何枚もの写真が、綺麗に整理されていた。 切なさが込み上げて来る。 (?) その右端に一通の封筒があった。 『和義さんへ』と書かれてある。 そっと手紙を取り出した。 「あなたへ。もうこの家へ帰ることはないでしょう。最後に、苦労をかけて本当にごめんなさい…」 手紙は5枚に渡り、今までの想い出が書き綴られていた。 鏡台の椅子に座り、震える手で、一文字一文字を噛み締める様に読む。 涙が手紙に落ちる。 「…あなたに出会えて、私は幸せでした。最後のお願いです。夢だった旅に連れて行ってください。これはきっと神様が、優しいあなたにくれた、思いやりだと思います。どうか私の最後のわがままを、きいてください。それまで、あなたのそばに寄り添わせてください。 由貴子より」 病院で書き留め、彼女の希望で一時退院した時に、入れたものであった。 ふと見ると、ひとまわり小さな別の封筒も入っていた?
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