第二章15 「弱い者」

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 けれど、最初からこんな疑問を持っていたわけではない。最初は父の期待に応えたいと思い、父の稽古を受け、寝る間も惜しんで自主的に鍛錬をしていた。  そんな時、お付きのウェジットから昔話を聞いたのだ。  ウェジットは、公務で忙しい父に代わった世話係のようなものだった。いつも遊んでくれたし、ヒュイスの勉強にも稽古にも付き合ってくれた。ヒュイスにとってはウェジットは産みの親よりも一緒にいた人物で、父代わりだったのだ。  ある時、ウェジットに気まずそうにしている母の様子に気づき、ヒュイスはウェジットに問いただしてみた。ウェジットは最初はとぼけてヒュイスの質問にはぐらかしていたが、ウェジットの隠し持っていた若いころの母が描かれた絵を目の前に突き出したところ、項垂れながら恥ずかしそうに話してくれた。  ウェジットはかつて付き合っていた母のことで父と取り合っていたと。そしてその母のそばにいるために王城で仕える道を選んだと。  聞いたときは正直、なにやってんだと思った。  想いを貫くために戦った父は素直にすごいと思うが、ウェジットに関しては呆れ果てた。一回の負けであきらめ奪い返そうともせず、女々しく母のそばにいたいからとヒュイスに仕えて、馬鹿みたいだ。報われない生き方をしている。  けれど、ヒュイスはウェジットに何かを感じた。  かつて好きだった相手が別の男といるところなんて本来なら見たくはないだろうに。しかも理不尽に奪い取られたともいえるのにも関わらず、恨みもせずにそばにいて、ましてやその子どもの世話をする。  そんなこと、普通できるものか。  もしかしたらそれは、『強さ』と呼べるものなのではないだろうか。    そう思った時、力で強くなろうとしてる今の自分が、力だけのこの国が、ひどく滑稽に思えた。  それでもこの国にいる以上、生きるために力を求め、強くならなくちゃならない。  強くならなくては、強くならなければ――……  ヒュイスは毎日剣を振り続けた。  しかし努力が実らなかった。  月日がいくら立とうと、決して父からも、ウェジットからも、母にさえ、ヒュイスは勝てることはなかった。  彼らが強すぎるから、というわけではない。手加減はしてくれていた、最低限まで。  それなのに、ヒュイスは一度も勝てなかった。  どれだけ剣を振っても、どれだけ身体を鍛えても。  そうして四年が経ち、十歳になった時だった。  この国のルールで、王子は十歳までは決して殺されることはない。力をつけるための猶予が与えられている。  もう、ヒュイスに残された時間はなかった。
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