第二章15 「弱い者」

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 そこからは簡単だった。  父はその言葉を信じ、国民に広げた。  そうして、ヒュイスは『強く』なり、簡単に殺される心配は一切なくなった。二番目に強いとされているウェジットに勝ったヒュイスはもう実質王と同じ実力を持ったと言っても過言ではない。十歳の子どもにしてその強さは誰にだって恐れられたし、ウェジットがあまりヒュイスの外見を晒さないようにしてたことが功を成して、十歳を越えても命が危ぶまれることもなかった。だからヒュイスは何もしなくもよくなった。  もう強くならなくていい。厳しい訓練も、叱責も浴びなくて済む。  マメだって手の平にできて痛かったし、吐くほど走らされたり、筋肉が切れるんじゃないかと思うぐらい動くこともない。人格否定ともいえる恐喝も聞くことはない。  求めていた安全安心の生活。命が脅かされることのない、何も心配のない生活。  それなのに、どうにも、虚しい。  力の強さだけがすべてではない。今でもそう思う。  だけど、本当は、自分の力で父に、ウェジットに応えたかったのだ。  こんなハリぼての『強さ』ではなく、本当のヒュイスの実力で応えたかった。  けれど、こうして生きていくしかない。  この先もウェジットに守られていきていかなければならないのだ。  そんなとき現れたのが、ユキだ。  一目会った時から気に食わなかった。  コントラス王国では女性が騎士になることはないと聞いた。  なのにユキは騎士だと言ったのだ。    だからユキにけしかけてみた。どれだけ強いのか、どれだけ倒せるのか。  そうしたらあの女、手を抜いて戦ったのだ。殺せるほどの実力があったくせに。  まるでハリボテの嘘まみれのヒュイスを笑っているようだった。  だからユキが嫌いだった。    嫌いだ。嫌いだ。  強い奴が大嫌いだ。  羨ましくて、腹が立って、自分が情けなくなるから。  けれど一番嫌いなのは――……  どんなに努力をしても強くなれなかった、守られるだけの、惨めな自分自身なのだ。
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