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ヒュイスはまたはあっと溜息をついて頭を切り替える。
ウェジットは来る。それは確信している。なら、このまま待ち続けていたら問題ないだろう。ヒュイスは待っていたらいい。ただ何もせず、だって弱いのだから仕方がない。もう誰にもヒュイスは期待されないのだ。だったら頑張る必要なんかないじゃないか。
そんなことを考えているとふと、ウェジットに似たあの女を思い出した。
あの女、ユキも来るのか――……?
いや、ユキは来る。
ああいうタイプはどうせヒュイスが攫われたことに責任感とかそういうのを感じているタイプだ。本来の目的であったスバルの救出を後回しにして、どうせ来るのだ、来てしまうのだ。
(死体見て、動けなかったくせに……)
茫然とセトウの遺体を抱えて動けずにいたくせに。
強いと思っていた。だって、あんなに敵に囲まれながらも剣を振り回して戦っていたじゃないか。あれだけ強いから怖いものなんか一つもないのだと思っていた。
それなのに、あんな、あんな、ショックを受けたような、恐怖を抱いたかのようなそんな態度。
あんなの、ただの女の子みたいじゃないか。
「…………ああああああああもうッ! だからあの手のタイプは嫌なんだよッ!」
「は、なに急に」
急に声を上げるヒュイスにタクミの困惑した声が聞こえてきたが、ヒュイスは気にする余裕などなかった。
だんだんと考えたらイライラしてきた。
なんでヒュイスが出会ってそんなに日もないあの大嫌いなユキのことを気にしなくてはならないんだ。何より関係ないし、ユキかどうなろうがヒュイスには関係ないことだ。
なのに、頭に浮かぶのはユキが泣いてる姿だ。
城の裏庭で、身体を小さくして、一人で泣いていたあの姿ばかりだ。
「ムカつくムカつくムカつく! 最悪だもうッ! なんで僕があんな奴のことを気にかけなくちゃならないわけ!? ほんっともう嫌だ!」
「……なになに?」
急に叫び出したヒュイスにさすがのタクミも困惑したようで、様子を見るように立ち上がって少し屈む。しかしその時には、ヒュイスは落ち着き天井を仰いでいた。タクミはさらに怪訝な表情をした。
「なに、お前どうしたの?」
「はあ……どうすっかなぁ」
タクミの問いかけにヒュイスは返事を返さず、独り言のように呟いた。それにタクミは口角を引きつらせる。するとヒュイスはタクミの方をチラリと目を向けた。
「……ねえきみ。君の目的って?」
自分の問いには答えなかったからかイラついた表情をしながら、タクミは答えた。
「は? そりゃ強い奴と闘うことだよ。ウェジットとかあの銀髪の女とかいいよね」
「あぁそう。あー……そっかぁ」
タクミの答えに納得したように天井を仰ぐヒュイスに、とうとうタクミは懐からナイフを取り出した。
「何その反応? 気に食わないなァ」
「いや、なんでもないよ。気にしないで。ただの独り言だから」
そう言って仰向けたまま目を瞑ったヒュイスに、タクミは怪訝な表情をしながらも一旦はナイフを収めた。
その間ヒュイスは考えていた。
「君さ、僕のこと弱いって言ったよね?」
「ああ?」
また突然な問いにタクミはもう一度脅すようにナイフを取り出すが、ヒュイスは全く動じなかった。
「弱いってなにを定義することを言うのかな?」
「は? そんなの負けた奴のことでしょ。てか何さっきから? 刺すよ?」
タクミの素直な言葉に、ヒュイスは思わず笑みをこぼす。それにタクミは怪訝な表情をした。どうしてこの状況で笑っていられるのか、理解できないと言った表情だった。
「あーそう。よくわかったよ。だったら僕は負けてないし弱くもないね」
「は?」
「弱いやつっていうのはさ……」
きっとこのままだとユキは来る。
あんな怯え切った表情をしてもなお、ヒュイスを助け出そうとするだろう。
それが、こんなにも気に食わない――……
だったらヒュイスが取る手段は一つしかなかった。
風が吹いて、カーテンが揺れる。
「諦めが早いやつのことをいうんだよッ!」
その瞬間、ヒュイスは縄を解きカーテンを思いっきり引っ張りタクミに投げつけた。
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