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第二章16「強い者と弱い者の証明」
「ッ!」
タクミは投げつけられたカーテンに一瞬反応できずタクミの視界を覆った。チッと舌打ちをしながらカーテンを取り払い、警戒してナイフを構えなおす。しかし目の前には捕まえて転がしていた王子の姿はなかった。怪訝に思ったのは一瞬。後ろから大きな物音が聞こえ振り返ってみるが、そこには誰の姿もなく、閉めたはずのドアが開きっぱなしになっていた。
「……ふうん? 案外しぶとい奴だったってことか」
タクミは振り落としたカーテンを拾い、床に広がっている切れた縄を見つめて不敵に笑った。
「ま、でも無駄無駄。周りには俺の手下が……」
そう言いながらタクミは窓から外の様子を確認した。
「ん?」
何やら外が少し騒がしいことに気づいた。タクミはそれに眉を潜めながら開きっぱなしのドアから廊下の様子を見る。すると、廊下の見張りや下の階にいた手下達がバタバタと外に飛び出し、窓から弓を射ている。状況がいまいちつかめず眉を潜めると、タクミは部屋の一番近くの廊下の窓から矢を射ている手下を思いっきり足蹴りした。
「どあ……ッ!?」
変な奇声を上げながら転がる手下を見て、タクミは冷めた目で見下ろした。
「おい、これどういう状況なの?」
蹴られた手下はタクミに気づくと慌ててすぐに起き上がって背筋を伸ばした。
「は、はい! あの、サ、ササメが……センの奴らに今襲撃を……」
「襲撃ィ? 昨日の仕返しでもしてきたのかなァ」
「そ、そうかもしれ……」
その瞬間、先ほどまで報告していた手下の頭に窓から入った矢が命中し、そのまま血を吹き出しながら廊下に身体が投げ出された。死体の頭から流れる血で床をじわじわと鮮やかな赤で染めていく。タクミはその死体を興味なさそうに眺めた。
「あーあ、よわ。窓から近すぎたからいけないんだよ。しかもひらっきぱなしの窓にぼーっと立ってるなんて狙ってくださいって言ってるみたいなもんじゃん。バーカ」
タクミは死んだ手下を足蹴りした。
これだから弱い奴は嫌いなんだ。
タクミは戦闘の中にある生死の境目、あの緊張感がたまらなく好きだ。
相手を殺す。けれど、もしかしたら自分が殺されるかもわからない。どちらが生き、どちらが死ぬのか。あの場だけがタクミにスリルと興奮を与える。強い相手ほど、苦戦するほど、脳が、心臓が、身体すべてが刺激される。その瞬間が楽しくて仕方がないのだ。
けれど弱い奴にはそういう興奮が感じられない。そもそも弱いのだから緊張感も何もないし、そんなものを感じる前にすぐに死んでしまう。だから嫌いなのだ。弱い奴に価値などない。
「お前も価値なんてなかったってことだねェ。名前覚えてないし、もうどうでもいいけど」
タクミは手下の死体に向かっておかしそうに笑みを浮かべると、ふとあたりを見渡した。
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