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そう思いながらニヤリと舌なめずりして望遠鏡でセンを見ていると、望遠鏡から見えた視界が一気に黒くなった。
「ッ!」
突然望遠鏡が割れ、タクミの頬に割れた望遠鏡の欠片がかすめた。そのまま破片が床にパラパラと落ちていく。
「……」
タクミの頬からつぅっと血が滴り落ち、それを茫然としながら拭う。そして何かがカランと金属音を鳴らして落ちた。ナイフだ。
ナイフで狙われた――……?
茫然とナイフを投げられた方向を見ると、フードを被った男、センと背中合わせにしている男がこちらを見据え、再度ナイフを放った。タクミはすぐに窓の陰に隠れてその攻撃をかわし、身体を隠しながら再度外を伺う。フードの隙間から灰色に似た青い瞳が自身の黒髪をかすめながらこちらを睨んでいる。
あの男は、センのアジトにいた男だ。あの時は興味もなく気にも留めなかったが。
「へェ、面白いじゃん」
タクミがいるところは二階だ。そのタクミのいる方向へ一階の広場からナイフをあの距離で投げてあてたのもそうだが、タクミはそもそもセンに向けて殺気を出してはいなかったはずだ。殺気を出せばセンに気づかれる恐れがあったので、殺気をなるべく抑えていたのだ。なのにあの男はタクミから漏れたわずかな殺気に気づいて攻撃してきた。あれも手練れだ。きっと戦ったら面白いに違いない。
タクミはそう思い、戦いに行くべく戦闘が起きている広場に足を向けた。
あの王子は逃げ出してしまったが、もうそんなことはどうでもいい。今は目の前の楽しそうな戦闘の方が優先だ。
だからどうでも――……
『弱いやつっていうのはさ……諦めが早いやつのことをいうんだよッ!!』
しかしふと、あの王子の言葉を思いだし、タクミは足を止めた。
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