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ユキとセンは集合場所で、それぞれ近くの木にもたれ、腕を組んでスバルとウェジットの帰りを待っていた。しかしユキとセンの間には言葉はなく、無言の時間が続く。
センは正直居心地が悪かった。
前まで戦っていた相手だからというのもそうだが、自分の近くの木でもたれているのはスバルの想い人だ。センはちらりとユキにばれないように盗み見た。
雪原を思わせるかのような美しい白銀の長い髪は、光に当たると夜空の浮かぶ星空のようにきらきらと輝いている。満月を思わせる黄金の瞳は伏目になり、その輝きを隠している。騎士だと言っていたのに日焼けのない透き通るような真っ白な肌、小さな唇には桜桃が彩られている。小柄で神秘的な雰囲気を持ち、黙っていれば上品さまで感じる。とてもあの古城で戦っていた勇ましい女性と同一人物とは少し疑ってしまうぐらいだ。
確かに見た目はいいが、センは正直このユキという女がいまいち気に食わなかった。
それは、あの時ユキが飛んでもない発言をしたからだ。
「……あんたさ、あいつのことどう思ってるんだよ」
気まずい雰囲気の中、センはユキに尋ねた。ユキは驚くこともなく、ゆっくりと伏せていた目を開けセンを見返した。
「あいつ?」
聞き返すように問うユキにセンは答えなかった。
答えなくても、わかっているはずだ。
なぜなら、見返してきたその瞳には動揺も驚きもなかったからだ。
「あの時あんたが必死になってあいつを取り戻そうとしたのは、あいつが大事だったからじゃねェのかよ」
そう聞くとユキは一瞬驚いたように目を開いた後、目を伏せながらゆっくりセンから顔を背けた。その反応にセンは眉を潜める。
無機質な反応だ。あの時もそうだった。スバルをくれと言ったあのときもこの女は眉一つ表情を変えなかった。たしかにユキから見ればスバルがユキを裏切っていたかもしれない。しかしそれでも、あんなに必死に取り戻そうとしていた相手を、こうも簡単に切り捨てられるものなのだろうか。センには理解できなかった。
本当にスバルはこの女のどこが好きになったというのか。今の反応を鑑みても、冷たい人間の戦闘狂にしか見えないというのに。恋は盲目というが、もしそうならセンがスバルの目を覚まさなければ。
頭が良くて、毒舌で、言いたいことはズバズバ言うかつての相棒に少し似ているスバルを、センは不幸になって欲しくはなかった。
そんなことを思い隣にいるユキを睨んでいると、ユキの口元がふっと緩んだ。
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