第二章16「強い者と弱い者の証明」

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 理解不能な表情が出ていたのか、ユキはセンの表情を見て「お前にとっては変に見えるか」といって苦笑いを浮かべた。そのままユキは木にもたれてズルズル腰を下ろして地面に座った。するとユキはトントンと自分の隣に座るようにセンを促したが、センは眉を潜めて断った。その反応にユキは再度苦笑いを浮かべて、話を続けた。 「私のこの気持ちなんて伝わらなくてもよかった。ただ気持ちを伝えずに、そばにいて幸せを願っていればよかった。たとえ、あの人が別の人を好きになろうとも、私の存在意義を、強さを認めてそばに置いてくれればそれでよかった」  かすかに笑みを浮かべながら話すユキは、どこか儚げで、センは言葉を発することができなかった。   「けどあの人はずっと私を認めなかったから、いろいろ頑張ったけれど、あの人は認めてくれなかった。それならそばに居続けようとしても、ただ辛いだけだった」  そう言ってユキは顔を膝に埋めて蹲った。その姿がまるで親に置いて行かれた子どものように小さく、寂し気で、センはただただユキを見るだけだった。 「求められてないないのにそばに居続けるのは想像以上に辛すぎた。……私は、私を必要として、あの人に初めて求められて、そうしてそばにいたかったんだ……」  苦しそうな声に、言葉に、何も言えず押し黙っていた。  センにはよくわからなかった。  ただわかるのは、この女が、ユキがスバルのそばにいるためにいろいろ頑張ったこと。  その結果そばにいれたのに、それが辛くなってしまったこと。  そして、気持ちを伝えないと決めていること。  センは頭は悪いが、この二人が解決する方法はわかっている。   好きなら伝えればいい。そばにいたいならそばにいればいい。  なんでそんな単純なことにスバルもユキも悩んでいるのだろう。  そう思いながらも、無粋に言葉にするにはどうかと思ってセンは押し黙ったままでいた。するとユキは自嘲気味にふっと笑みを浮かべた。 「それなのに、認められず、護衛なのにお前らにあの人が攫われる始末で役にも立てない。それならあの人にとって私は邪魔なだけだ。そりゃ、蔑ろにするだろうな」  その言葉に、センははっとした。  そうだ。ユキから見たらスバルはまだ裏切ったと思われたままだ。  蹲っているユキにセンは慌てて口を開いた。 「あ、いや、あのな、それ勘違いだから!」 「……なに?」  それを聞いてユキはゆっくり顔をあげてセンに訝し気な表情を向けた。センの言葉を疑っている様だ。そんな信頼関係も築けていないのだから当たり前なのだが、なぜだかここで誤解を解かないと駄目な気がする。無粋かもしれないと先ほど思ったばかりだが、こうなった原因は少なからずセンにもあると思い、スバルが裏切った云々のところの誤解は解きたかった。 「あいつはお前に話そうとしてたって! いろいろタイミングが悪かっただけで……マジだって! 大マジ!」 「……」 「う、疑ってんのかよ!?」  訝し気な表情をなかなか崩さないユキにセンはさらに焦った。しかし、そこでふとユキの表情が戻り、センから顔をそむけた。 「……いや、あの人らしいって言ったらそうかもな」  そうぼそっと呟いた言葉にセンは内心首を傾げたものの、ユキは突然立ち上がって、座った際のスカートの汚れを払うようにお尻をパンパンと払いながら立ち上がった。そこから見えた表情はなぜか先ほどより、少し晴れやかだった。しかし誤解が解けたのかどうか、センにはよく読み取れなかった。
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