第二章16「強い者と弱い者の証明」

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「ユキ」  背後からすっかり聞き慣れた声が聞こえてきて振り返る。  そこには、フードを深く被ったスバルの姿があった。それと同時にユキの後ろからウェジットの姿が見えてきた。どうやら二人ともそれぞれの部隊の指示は終わったようだ。  四人は向き合うようにして、合流した。 「周りの罠や見張りの敵の制圧は成功した。隠密部隊も襲撃部隊に合流させた。あとは攻めるだけだ」  全員が集まったことを確認したあと、スバルが最初に報告を始めた。  今回の作戦の肝はスバルの指揮していたアジトの周りにいた敵の制圧だ。このアジト周辺に踏み入れる前に、周りにいるであろう見張りを倒し、安全圏を確保する必要があった。それもタクミにバレないように隠密にだ。これが失敗してタクミにバレたら、ユキ達は彼らに有利な山の中で袋の鼠となるだろう。そうなるとヒュイスだってどうなるかわからない。そのため、スバルの指揮していた隠密部隊はこの作戦においてかなり重要な役目だった。  しかしそれが成功したとなると、あとはセンたちがタクミたちを陽動し、救出部隊のユキとウェジットが裏からアジトに侵入し、ヒュイスを救出するだけだ。  その報告を聞き、ユキは頷いた。 「わかりました。では、あとはお願いします」  丁寧にスバルにお辞儀をするユキに、スバルが少し悲し気な表情をしていたのをセンは見逃さなかった。しかしユキが顔をあげたときには、その表情は消し去っており、いつもの不機嫌そうな表情に戻っていた。 「気をつけろよ」  表情がいつも通りに見えるが、その声が少し硬い。それは決して戦闘前の緊張からではないだろう。  どんな反応をするかなぜかセンがビクビクしながら、ユキの様子をちらりと横目で盗み見た。 「……はい」  しかし予想に反し、ユキは柔らかな表情を浮かべて返事をした。  それにセンもスバルも、少し目を瞠った。    そうして驚いている間にユキがウェジットと作戦の配置に行くため背を向けると、不意にユキが立ち止まって、センたちに振り返った。   「そうだ。この後あそこから三本先の木のところに行くといい。いいことがあるぞ」 「あ?」  ユキはセンの斜め後ろの方向を指さしながら、いたずらっぽい笑みを浮かべて、そのままウェジットと一緒にアジトの裏に向かっていった。
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