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「なッ! お前ユラ!?」
覗いたその木の幹には大きな空洞があり、中に人がいたのだ。
それは、城に捕らわれていると聞いていたセンの仲間のユラだった。
「びっくりしたぁ。センくんじゃなぁい。驚かせないでよぉ」
ユラもセンの登場に驚いたように目を見開いていた。
しかし驚いたのはセンも同じだ。
「なんでここにいるんだよ! 城の奴につかまってたんじゃなかったのかよ!」
驚いたままユラを問い詰めると、ユラは木の幹から這い出て立ち上がり、センと向かい合った。
「まあ、そうなんだけどぉ。あの子がもういいっていうから、わざわざ城からここまで付いてきたのよぉ?」
いつもの間延びする喋り方に無事なことがわかりほっとした半面、ユラのある言葉が気になった。
「あの子?」
そう聞くとユラは、幹に隠れて服が汚れたのかパンパンと自分の服のあたりを叩いて汚れを払っていた。そういえば戦士のくせに、おしゃれとかに人一倍気を遣っている女だった。
そんなことを思いながら、ユラはめんどくさそうに答えた。
「あのユキって子よぉ。センくんをもう見つけたから解放するって。解放ついでに仲間のところに連れて行ってやるって言ったのよぉ?」
「……まじかよ」
ユラの言葉に、センは驚いたように呟いた。
協力することになったからといって、いつ裏切るかわからないセンたちを繋ぎとめるのに、まだユラには人質としての価値は十分にあったはずだ。見返りに、物資の提供や王の居場所の答えがあったとしても、ユラが人質にされていなければセンは元々断っていたのだ。だからこそ人質がどれだけセンに有効なのか、ユキは知っていたはず。
それなのになぜ――……
「甘いやつ……」
考え込んでいると、ぼそりと呟く声が聞こえ、センは振り向く。そこには何かを堪えるように表情を歪ませているスバルがいて。もう遠くに行ったユキがいる方向に複雑な眼差しを向けていた。
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