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「何も言わなくてよいのか?」
配置場所に移動してると、隣に歩くウェジットがユキに話しかけてきた。顔を向けると心配そうにこちらを覗き込んでいる。
そんなに難しい顔をしていたのだろうか。そう思い安心させるように微笑んだ。
「今生の別れじゃないんだ。そんなたいそうなことをする必要なんてない。だから言いたいことは、また後で言うよ」
そう微笑んで返事をするが、ウェジットはまだ何か言いたそうだ。
普段真顔だが、打ち解けてしまえばウェジットの表情は表に出やすくなるらしい。最初出会った時より随分とわかりやすくなったものだ。そう思い内心で微笑む。
「今はヒュイスを救出に専念しよう。せっかくあの人が切り開いてくれた道だ。この機会逃すわけにはいかない」
「……そうだな」
切り替えるように強い言葉で言うと、ウェジットもそれに応じるように答えてくれた。
けれど、本当にウェジットが心配することはない。
ユキは馳せるようにそっと目を閉じた。
もう、大丈夫だ。きっともう悩むことはない。
あの人に話したいことができた。聞きたいことができた。確かめたいことができた。
だから今は、やるべきことを。
ドンッと火薬が爆発したような地響きが聞こえてくる。
センからの合図だ。
ユキの目が、ゆっくりと開かれる。
「作戦開始だ」
ヒュイスを助け出す。
自分を大切にしろと言ってくれた、あの小生意気な王子を。
その言葉に、励ましに、報いるために。
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