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「はあ……ッはあ……ッ」
そのころ、ヒュイスは息を切らしながらタクミのアジトの裏側にある木々をひたすらに突っ切り、限界に来たところで足を止めた。
「案外簡単に抜け出せるもんだね……。もっと敵がうじゃうじゃいるかと思ったけど。周りの奴らが慌ただしくしてたおかげで紛れて脱出できたや……。なんか表の方は騒がしかったけど」
ヒュイスは上がった息を整えながら木に手を添え、あたりを見渡した。周りは木ばかりで何もない。自分がどのくらい走ったのかわからないが、とりあえず追手などはなさそうだ。しかし、アジトがある方向に何やら騒がしい声が聞こえる。もしかして表が騒がしかったのは、何か襲撃でもあったのかもしれない。
もしユキたちだったら最悪だ。せっかく必死に抜け出したのに、ヒュイスの行動の意味がないではないか。冷静に考えれば、もしそうなら助けを求めて保護してもらえればよかったのかもしれない。あの時は逃げ出すのに必死でそんな考えすら頭に回らなかった。
「どこなんだろ、ここ。とりあえず奴らに見つからないように下りればいいかな。あの女が来てなきゃいいけど。とりあえず早く下りてからそっから……」
考えればいいか、と言おうとして真横に鋭い風を感じ、髪がかすかに揺れた。
その、あまりの鋭さに身体が動かない。
違う。ただの風なんかじゃない。
恐る恐る目線を少しだけ前に動かす。地面には矢が刺さっていた。
後ろから聞こえるザクザクという足音が徐々に近づいてきているのがわかり、たらりとヒュイスの額から汗が流れ出た。
まさか――……
「みーつーけた」
「ッ!! 嘘だろ!?」
嫌な予感は的中だ。
声が聞こえた瞬間に振り向くと、そこには片手に弓を持ったタクミの姿があった。その両腰にはしっかりとあの双剣が携えてある。余裕そうな笑みでゆっくり近づくその動作にすら、恐怖を超えて苛立ちすら覚える。最悪の状況だ。
「まさか君自ら追ってくるなんて思わなかったよ」
ヒュイスが少し後ずさりしながら強がりの笑みを浮かべて話すと、タクミは立ち止まった。ヒュイスの間合いには入っておらず、距離はまだある。しかし遠距離攻撃を得意としているタクミにとっては関係のないことだと、ヒュイスにだってわかっていた。
「んー、まあね。弱い奴に興味はないけどさ。ちょっとお前に用ができたからね」
「はは、それは光栄だね。じゃあ最高のおもてなしをしたいから、準備のため、ここは見逃してもらえないかな?」
「へえ。城の料理にありつけれるなんて嬉しいね。けどいいよ。ご馳走なら目の前にあるし」
「わお。君ってもしかしてそういうご趣味が? 君の仲間の誰かも君の恋人だったりするのかな?」
そういってヒュイスはわざと挑発するように話した。ちょっとした時間稼ぎだ。その間にもヒュイスは頭をフル回転させてここから脱出できる様々な逃げ道を考えていた。
しかしどう動いても確実に死ぬ。
戦闘経験の少ないヒュイスでもわかる。今この場から少しでも逃げる素振りを見せれば、きっとヒュイスの首は確実に落ちる。空気が張りつめているわけでもない。しかしその腕前があることを、ヒュイスは目の前で見て知っている。
あの時逃げられたのは、不意をつける状態だったからだ。サシで相手して勝てるわけがない。
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