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「……ぅ……」
風の音に攫われそうなほど、小さな呻き声にスバルははっと顔をあげた。
少し身動ぎをして、瞼を震わせているセトウが目に入り、スバルは急いで駆け寄った。
「セトウ。わかるか?」
「スバル……でん……」
セトウはゆっくりと、微かに目を開けた。呼びかけに答えた声はかすれている。けれど、この反応はセトウが生きている証だ。スバルはほっと息を吐いた。
スバルは近くにあった椅子に座り、虚ろな目のセトウがスバルの方に僅かに顔を向けた。
「……俺は……」
「タクミにやられたんだ」
「……そう、ですか」
セトウは覚えているのかいないのか、はっきりしない返事をした。起きたばかりでぼうっとした様子だ。痛ましくなって、スバルはぐっと唇を噛む。カグネ王国の医療措置がよかったのか、それともセトウの体力のおかげか、奇跡的に意識を取り戻したとはいえ、セトウが重症なのに変わりはない。そうさせてしまったのは、まぎれもないスバルだ。
「急にこんなこと言っても、混乱するかもだけどな。言いたいことがある」
スバルは椅子から立ち上がり、セトウに頭を下げた。
「悪かった。こうなったのも、お前がそんな怪我を負うことになったのも俺のせいだ」
連れ攫われた後センに協力していたこと、古城での戦闘でスバルもその場にいたこと、彼らを逃がしたこと。スバルは今までのことをすべて語った。
「俺が勝手をしたから、判断を間違えたから、お前はこんな目に……」
過去の自分を悔やんでいると、セトウの口から思いもよらぬ言葉が紡がれた。
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