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「いいえ、スバル殿下。それは違います」
先ほどのかすれた声とは違い、はっきりとした口調でスバルの言葉を否定した。セトウの表情は見た事もない真剣な顔で、少し怒りを孕んでいるようにも見えた。
「俺が弱かったから、俺は怪我を負ったのです。自業自得でした」
セトウはスバルから視線を外し、天井を見上げ睨みつけるような鋭い視線を向ける。セトウの目には昨夜の出来事が映し出されていた。
「俺、初めて知りました。王国騎士団に入れたから、そこそこ自分は強いんだと思っていたんです。でも、全然違いました。世の中にはもっと強い人がいるんですね」
そう言ってセトウは大剣を扱う自分の手を天井に伸ばした。硬くなった豆と稽古でついた傷痕だらけのその手は、厳しい鍛錬に耐えた彼の努力の証だ。
セトウはその手を決意するように、強く力強く握りしめた。
「俺、強くなりたいです」
セトウは真っ直ぐな瞳で、力のこもった眼差しを向けた。
しかし揺るぎないセトウの決意に、スバルは首を振る。
「お前はもう強い。今回のことで自分を責めすぎるな」
不甲斐なさを感じているのだろうが、その必要はない。
コントラス王国の王国騎士団は一人の団長と五部隊で編制されおり、候補生の中から英雄キリエルが選んだ者しか入隊できない。そして今はセトウがその王国騎士団の五部隊の一つの部隊隊長をしているのだ。今回ユキが隊の指揮を執ることになったのは、スバルの護衛騎士であったということと、元々ユキの実力が王国騎士団団長候補に匹敵していたというのが大きい。指揮を任せなかったのも、タクミに負けたのも、決して彼が弱かったからではない。
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