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しかしスバルが否定をしても、セトウの瞳は変わらないままだった。
「そうですね、王国騎士団は本当に強い人しかなれない。王国騎士団に入隊した人はそれぞれの管轄の部下を持つ。城の警護の指揮はもちろん、自身の兵団の指揮だってする。そうやって国も城も守ってきた。けれど、そのままでいいのかって思ったんです。もし外から攻撃があったとき、本当に俺らは守れるのでしょうか? 今は安全でも、きっといつの日か”その日“が来る」
「……」
スバルは押し黙った。彼が言ったことは、空想でも何でもない。
コントラス王国は海を覆う最大大陸ヴァルセリア大陸の西に位置する沿岸王国。陸からも海からの侵攻に備えて現在も辺境伯によって防衛措置が取られている。しかし万が一、王都に攻められた時、今の騎士団では対応は難しいだろう。今回の戦いで一部の騎士は、歯が立たなかったという報告も聞いていた。
「俺は強くなって、もしものとき、国を守れる人間でありたい。例え俺の代で役に立たなくても、手に入れた強さを、技術を、敗北を、もしもの未来の為に後世に継がなくてはいけないと思ったんです。きっとそれが俺がここに来た理由で、この傷を負った意味なんだ」
カグネ王国に侵攻された時に所属していた騎士たちはほとんどが引退している。当時の状況を語り継ぐものがいなくなり、だんだんと国の中で防衛の意識が甘くなってきた。だからこそ、もし今回の交流が成功できたのなら、毎年行っているカグネ王国側の要塞強化を撤廃し、スバルは騎士団の具体的な防衛体制の見直しを議会で提案するつもりだったのだ。どれだけ国で強いと謳われても、場に対応できていなければ意味がない。
しかし、セトウが同じように考えていてくれるとはスバルは思わず、少し面食らってしまった。
「セトウ……」
セトウは普段からあまり怒らないし穏やかな性格だ。だから普段の優しい顔つきからは想像できない険しい表情にセトウの決意の重さが現れる。
生死を彷徨うほどの大怪我を負って、今この瞬間にも絶え間なく激痛があるはずだ。セトウはそれでも強くあろうとしている。
今の彼に、スバルは何を返せるだろうか。
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