84人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにスバル殿下」
声色を柔らかいものに変え、セトウはふっと顔を緩めた。
「こんなこと言うのは失礼かもしれませんが俺は年上で、あなたより人生経験も上なんです。つまり俺からしたらあなたはまだ子どもです。勝手するなんて、あたり前の年頃なんですよ」
「は?」
スバルは急な話題の展開に訳が分からず声を上げた。
目を丸くしているスバルにセトウはふふっとおかしそうに笑う。
「俺弟いるんですけど、危ないからやめろって言ってるのに、騎士の真似して鍬振り回してたら、俺の腹にぐっさり刺したこともあったんですから。それに比べたらスバル殿下の勝手なんか可愛いもんですよ! あっはっはっは! いててててッ」
笑った拍子に痛んだ傷口を抑えベッドで悶えるセトウに、それは笑い事じゃないだろう、とツッコんでいいのかスバルにはわからなかった。
セトウは痛みが治まり、微妙な顔をしているスバルにもう一度優しい目を向けた。
「あなたの立場からそれを許せない人はきっと多いと思いますが、スバル殿下がそうしたいと思ったことなら勝手でも何でも、それでいいんです」
「……お前ら国民を導くのが、俺の役目だ。だからこそ、俺に勝手は許されない」
「その役目を支えるのが、臣下の務めですよ。勝手して間違ってもいいじゃないですか。最初からできる人なんて誰もいないんですから」
虚を突かれ、スバルは次の言葉をたじろぐ。
スバルの前にはいつも父や兄のエイシがいた。
厳格で他者を抑制する力のある父。
人をからかいながらも周りから慕われ、決して失敗や間違いを起こさないエイシ。
父なら失敗しない。兄ならもっと上手くやった。
そんな考えがずっと脳裏にこびりついて、優秀で有能な二人を見て自分は凡人なのだと思った。凡人だからこそ、間違えてはいけないのだと。
“それでもいい”
その言葉が、じんわりと広がり身体を少し軽くする。
『王子』としてではなく、『スバル』でいることを、許された気がした。
最初のコメントを投稿しよう!