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セトウは、スバルに慈しむように微笑んだ。
「だからね、スバル殿下。あんまり自分を責めないでください」
スバルは息を呑む。
微笑み方が、言葉のかけ方が、あまりにも兄のエイシに酷似していたから。かつて幸せになれと優しい望みを口にした、エイシの面影が重なる。
「あなたのせいじゃない。俺は、大丈夫です」
自分の勝手な行動がどれだけ周りに影響するか、スバルはよくわかっていた。わかっていたのに、自身の意地とセン達への情がスバルを動かした。一国の王子には許されないことだ。
(俺は、俺を、許していいんだろうか……)
セトウを、ユキを傷つけたスバルを、スバル自身は未だに許せないでいる。
それでももし彼らから許され、自分を許せたのであれば。
(俺はまだ、ユキと一緒にいたい)
胸にある、この小さな望みに手を伸ばしてもいいのだろうか。
目を閉じ、瞼の裏に愛おしい女性の姿が浮かぶ。
胸に大事に守ってきた蕾たちがいた。その蕾はずっとユキと出会った時からあったもので、一度は花が咲き、けれど自身で手折ったものだった。自分で傷つけた癖に、もう一度腕の中に取り戻したいなど傲慢だと自分を責め、ずっと水を与えないように抑え込んでいた。
その蕾が、意思を持って咲き始める。美しく、気高く、時には可憐に、鮮やかな花々が、まるでユキを体現したかのうようだった。
手を伸ばして、抱きしめたい。
本当はずっとそう思っていた。
ユキに想いを馳せていたスバルは、ゆっくりと開いたユキの瞳が少し黄金に光輝いていたことに気づかなかった。
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