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「もうここにはいられない。どこかに身を潜めます」
「ええ!? あてはあるのですか……!?」
「そんなものないわッ!」
「ええええ……!?」
驚くサヤをよそにどんどんとドレスを積み込み、さらにクローゼットも開ける。
「とりあえず当面の目標は、あのバカ王子に一発嫌がらせをすることよ……!」
「え、はい!? バカ王子って……第二王子の、お嬢様の婚約者様でしょう……?」
「元! 婚約者! あんのバカ王子、私がどれだけ努力したかもしらないで……!」
ユキは、この国の第二王子の最初のお見合い相手に選ばれた。
なぜだかわからないが、男爵の地位の中でも下位にあるツクヨ家が王子のお見合い相手に選ばれる、それは父からすれば降って湧いた幸運だったのだ。ユキ自身もなぜ自分が選ばれたのか知らないし、わからない。
しかしだからこそ、ユキはあの婚約者の隣に立つべく、これまで以上の努力を強いられた。まず、周りから認めてもらうため、夜会や舞踏会などの社交界の場で侯爵から男爵まで積極的に交流を行い、自分を知ってもらう機会を増やした。その際立ち振る舞いや話し方、王太子である婚約者を今後も支える意思を示し、教養もあるということも会話からにじませた。そうすることで周りから相応しい婚約者であるということを知らしめる。実際その行動が見合って周りからの貴族の権力者からは好印象だった。
しかしその中でも面白くないと思うのが、婚約者候補であった令嬢たちとその家族だ。
まず最初に起こったのは、ユキの良くない噂だった。
『貴族のおじ様方を誘惑し、乱れた遊びをしている』『ある可愛いらしいと評判の男爵令嬢を嫉妬して隠れていじめている』などの噂が社交界で広がった。
しかしユキはこれを冷静に対処した。噂の根源を探すなど不可能。ならばそれを払拭するだけの力量を見せつければいい。
大きな行動をするとあえて疑われる恐れがある。なので何か特別なことはせずに、いつも通りに夜会をやり通す。そのうえで力を見せつけるのだ。そんなとき、舞踏会が行われ、この国の第二王子であり、ユキの婚約者であるスバルも参加した。舞踏会は身分の高い者から順番に踊っていく。もちろんスバルとユキは一番目、そして最も注目される場であった。舞踏会で大切なのは、美しさと華やかさ、そして圧倒的存在感。そのためにはスバルとの息の合った完璧な踊りを見せる必要があった。
その時のことを思い出し、クローゼットに手を伸ばそうとしていたユキの手が止まった。
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