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暫くして、ドアベルが鳴る。
自ら出迎えたいのを止められたため、自室で大人しくしている。
ヤンと会うのは、本当に久しぶりだわ。
彼は唯一といっても過言ではない友達だ。
そばかすと八重歯が印象に残る活発な少年だった。
あのころは本当に楽しかった。
意識が昔へと向かい始めたとき、ドアが鳴った。
思わず緩む頬を押さえて、エマはドアを開けた。
渋い顔をしているリダ。
「何かあったの?」
そんな彼女に問いかける。
「それがーー」
「あなたがこの屋敷の令嬢、ミス・エマですか?俺はヤンの友人でアルと言います。噂はかねがね。ここにくる前の馬車でも御者からあなたのことを聞いたのですよ」
隣に立つヤンを押し退けて、アルと名乗る男は一歩前に出た。
あまりの勢いに尻込みしそうになるが、何とか踏みとどまる。
「アルね。よろしく」
「よろしく」
アルはごく自然な流れで、エマの手を取ると甲に軽く口づけた。
「やっ」
慌てて手を引っ込める。
それからヤンを見た。彼は眉ねを下げている。
「お嬢様。今すぐに消毒致しますね」
リダはそう言うと、ポケットからハンカチを取り出して手の甲を優しく、しかしゴシゴシと吹き始めた。
アルは気にしていないようだ。
にこやかに笑っている。
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