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「皆様。すぐに食事の用意を致しますので、それまでバラ園でお茶でもいかがですか?」
「バラ園ですか。いいですね」
「お母様お気に入りの品種が揃えられているのよ。その……ヤンも気に入ってくれると嬉しいのだけど」
遠慮がちに言う。
ヤンは屋敷に入ってから、最初の挨拶以外はほとんど言葉を発していない。
今もだ。曖昧に笑うだけで、その表情からは本心が読み取れない。
活発だったころの彼はどこへ行ってしまったのかしら。
少しの寂しさを抱え、それでもかつての友達と、再びこうして誕生日会を開けることに喜びを感じていた。でもー…。
「どうかしましたか?じっと見て」
「いえ」
できればヤン一人と話したかった。
ーーとは言えなかった。
バラを見て回ってくる。
アルがそう言ったとき、エマはホッとした。
これでようやくヤンと落ち着いて話せると思ったからだ。
「あっちにベンチがあるの。少しお話しない?」
ヤンは小さくうなずくと、彼女のあとに続いた。
二人並んでベンチに座る。
そこからの景観も見事なもので、薄いピンク色したバラが美しく咲いているのが見える。
空も青々としており、気持ちが晴れやかになっていく。
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