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数歩進んだところで気配を感じる。
振り返ろうとしたところを後ろから押さえられた。
「むぐっ?!」
口も塞がれ、助けも呼べない。
冷や汗どころの騒ぎではない。
殺される。すぐにそう思った。
踠くも圧倒的な力で押さえ込まれて、最小限の動きしかできない。
吸血鬼だと町の人たちに恐れられていても、実際はなんて非力なのだろう。
悔しさから涙が滲む。
「あなたに危害を加えたいわけじゃない」
アルの声だ。
「手は離すけど、叫ばないでくれよ?」
小さく何度もうなずいた。
手が離れると、目一杯に息を吸い込んだ。
ゆっくりと吐きながら、アルへと身体を向けた。
「俺はあんたを助けにきたんだ」
「どういうーー」
意味?と続く言葉は屋敷中につんざく悲鳴にかき消された。
「しまった!」
アルはそう言うと、部屋から出ていった。
暫く呆然としていたエマだが、悲鳴の原因に思い当たると自身も飛び出していた。
数ある客室の一部屋、ヤンが休んでいるはずのその部屋にエマは足を踏み入れた。
瞬間、床に倒れているヤンを見て悲鳴をあげる。
「全てお任せくださいと言っていたではありませんか」
「……リダ……」
リダの手にはナイフが握られている。
その刃先は赤く滑っていた。
ヤンが刺されたのかと、ヒヤッとするも違うとわかる。
何故ならば、アルが自身の肩を押さえていたからだ。
床には垂れた血がついている。
彼はリダから守るように片膝をついて間に入っていた。
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