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『無』というものがこの世に存在すると、僕は目の前の景色を見て知った。
そして、同時にこの世界が現実でないことも、分かった。
異世界なのか何なのか、待ったくもって興味もないが。
だってそうだろう? 現実の世界なんかに完全なる『無』が存在するはずもないのだ。
どれほどに苦虚で心寂しい場所に訪れたところで、結局その郷愁だとかいうひどく美しい不純物が紛れ込んでしまう。
故に、この完全なる『無』の体現に成功しているこの世界が、現実な訳がないのだ。
その場所は、浜辺だった。
遠く覗き込んでみても、永遠に海が続くような、そんな場所で、丁度夕陽が沈みかけているような、そんな場所だった。
美しい景色ではあった、でも何も感想は湧いてこない。
本当に独りきりのこの世界で、寂しくなるわけもない。
あの現実から逃げ出したくてたまらなかったけれど、別に嬉しくもない。
この場所が果たして何なのか、なんてことも別に気にならない。
ただ、この場にあるものを享受して、それで終わり。
それ以上何かをするならば、この場が『無』で無くなることがわかっているから、何をする気もないのだ。
ただ過ぎゆく波と時間の流れを眺めて、永遠を享受するだけ。
そうしていく内に、いつしか僕も『無』の景色の一つになるのだ。
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