お迎えが、やって来る

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赤い旋律が、夜風のなかに孕まれて、人々のこころ呼びさまそうとする。産まれたばかりの、まだ幼い旋律。その幼さゆえに、人びとのこころを微笑ませ、、、、、、さあ、ご自由にお入りください、、、、、、といわんばかりに、家々の窓は、開け放たれるのだ。それは、夕べの海岸でも同じであった。こころを癒す音楽にふれ、喜作と権助は、、、、、、こりゃなんだ、エーデルワイスか?、、、、、、などと、少ない音楽の知識を持ちよって、語り合った、、、、、、やっぱり、俺たちは、八代亜紀の、舟唄、が、いいなあ、、、、、、鳥羽一郎の、兄弟船、もいいぞ、、、、、、そうだなあ、、、、、、旋律は、そのとき、海辺を散策している少年と少女にも、浄化の炎として、それと知られた。少年と少女は、それはただ、赤く美しいだけではない、悪しきものを、焼きつくす力がある。風は、浄化の炎とともにやってくるのだ、と、感じた。中空に赤い衣をまとった天使が浮かんでいた。エバヌエルであった。肉眼では、見えない炎を、エバヌエルは、操った。東京都心の空を中心に、日本の空は、一時、赤く染まった。それは、きわめて、暗示的であった。少年と少女は、赤く染まった夜空に架かった青白い月を眺めながら、歩いた。さっきまで、真っ赤だった空も、エバヌエルが天界に去ると、少しずつ青みがかり、やがて、夜の闇の色になり、星と月が、光りを放っていた。空が、真っ赤に染まったときは、東京都心でも、大騒ぎであったろう。今は、静けさのなか、少年と少女は、仲好く手を繋ぎながら、月の光りのなかを歩いている。喜作と権助は、大衆酒場で、一杯やりながら、ご機嫌のようである。少年と少女は、月光を浴びながら、少しずつ青白く染まり、この世のものとは思えぬ、幻想的な青白いひとがたとなった。次第に、二人は、淡く、透き通ってゆき、ただ青白い輪郭だけが人間らしさを伝えている。透明人間、の、ようである。もう、二人は、この世の者ではありえぬのであろう、、、夜空の奥の天界から、ピルカバンナにのった天使が、涼しい音色の鈴をならしながら、徐々に徐々に、二人へちかずいてゆく。地上へとおりると、少年と少女は、天使に促されるまま、天使の後ろに坐り、ピルカバンナに乗って天界へと滑らかに音もなく旅立っていった。酒場の暖簾を分けて、外に出た、喜作と権助は、幻想的なその光景に出くわし、ぽかんと口を開いたまま、直立不動で、最後まで、その様子を見届けたのであった。さようなら。
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