1551人が本棚に入れています
本棚に追加
相沢の会社に中途採用で入社してきた新入社員の若い男がいた。
線の細い男で一見して優しそうな感じの男だ。
「相沢社長。この時期に採用したのか?」
「運転が出来る子と男手がいると思って中途採用したんだ。」
「確かに人当たりは悪く無さそうだな。」
そう言ってチラッと彼をみれば彼は沙羅に何やら声をかけると二人で事務所を出て行った。
「あの男の名前は?」
「岡野博之だ、なんだ気になるのか?」
「いや、何となく営業に向きそうな子だと思ってな。」
俺は、その岡野に興味があるのでは無くその行動に興味があっただけだった。
それに俺が誘っても断った彼女が、あの男の誘いには笑顔で受け答えして一緒に出て行った事が気に入らなかった。
「まだ若い子だからこれからゆっくり育てるよ。」
相沢は、穏やかな男で人を育てるのが上手く従業員も彼を慕っている。
「それがいいな。」
そんな会話をしていたら沙羅が、笑顔で岡野と話をしながら帰ってきて手にはビニール袋を持っていた。
その袋の中には、アイスが入っていて沙羅は岡野と一緒に皆に配っていた。
俺達にも沙羅でなく岡野が二つほど持ってきてくれた。
「気の利く子だな。」
俺がそう言うと相沢は、そうだろう?と得意げな顔をした。
岡野と沙羅の二人を見ていると異様にイライラしてきたのだから困ったものだった。
なんてことはないのに沙羅が、彼に笑いかけるだけで腹が立つそんな感情を持て余した俺は、仕事を終えた後に服部が運転する車に乗り込み考えてみた。
沙羅に出会ってから気が付けば彼女を探してでも見てしまう。服部が言うように彼女がいつどんな服装をしていたかと聞かれたら即答できる自分がいる。
岡野だけに限らず沙羅の周囲に男がいてもイライラするし得に、岡野が沙羅と話しているのを見ると間に入り邪魔したくなる。
一人の女にこれほど執着した事は一度もなかったし、気がつけば彼女と出会ってから誘って来た女との駆け引きも面倒でもちろん抱きたいとも思わない。
初恋は、何時だと聞かれても俺は、初恋を知らない事に今気がついた。今までに恋をした事が無いと俺は気がついてしまった。
電話で済むような些細な案件でも相沢の会社へ行き彼女を無意識で目で追っていたからこそ彼女の服装を覚えているのだ。
俺は、彼女に会いたいから相沢の会社に足が向いていると言う事を認めざる得ない。
「俺はどうしてしまったんだ?」
経験した事にない感情の変化に俺自身がついていけなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!