3 雨のはじまりを見たことがある?

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3 雨のはじまりを見たことがある?

瑠香さまは他のエンジニアと、違う。 そう思いはじめたのは、いつからだったろう。他のエンジニアの方々も私に声をかけてくれる。 でも、何かが違う。わからない。 理由を探り始めてバグを発見した。報告を躊躇ったのは、このバグが、私と瑠香さまの絆のように思えたからだ。 欠陥かもしれない、脆弱性に繋がるかもしない、でも、手放せない。 例の騒ぎ以降、瑠香さまは、管理者ではなく、いちユーザーとして自分の会社のサービス、つまり『ヴィレッジ』を利用されている。 最大の理由は自社の売り上げに貢献するためらしいが、世界観が良いとか、私と会話するのが楽しいとか、零すように仰って頂くこともあって、とても嬉しい。 何気ない日常が、ずっと続けばいいと思っている。 * その日は、瑠香さまのログイン時間が遅れた。 いつも決まった時間に来て頂けるはずなのに、こない。お嬢様を待ちわびて、私はそわそわしてしまう。 二時間も遅れてやってきた瑠香さまが、明るく切り出した。 「やー、ごめん、ごめん。今日、夕立にあってさ」 言いながら朝顔の咲く浴衣に着替えられる。赤い帯が映えている。私は藍色に白を散らした浴衣と黄色の帯を選んでもらう。 「いえ、とんでもありません。でも、災難でしたね」 「それがそうでもなくってね──エレナは、雨の始まる場所を見たことがある?」 小首を傾げる私に、瑠香さまが滔々と語り出した。
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