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一台のワゴン車が猛スピードで夜の街を走っていた。
あらゆる道路交通法を無視して、郊外に消える。
信号を守らないのは非常識? 標識を守らないことは非常識? スピード違反は非常識?
そして、後部座席に女子高生を押し込み誘拐することは非常識?
否。結論はどれも、『犯罪』である。
けたたましい音楽が車内に響く。
運転手は鼻歌を口ずさみ、助手席の男はガムを噛みながら外を眺めている。
後部座席の男二人は口をつむいだままで、そのあいだに、セーラー服の少女が座らされていた。
長めのウェーブがかかった髪。精巧なガラス細工を思わせる美しい首筋と、整った顔立ち。
窓から差し込む月明かりが、よりいっそう、彼女を神秘的な存在に魅せていた。
「あの」
少女がつぶやく。左右の男は微動だにせず、前を見ている。
「無口な奴らなんだ、気にしないで」
助手席の男がルームミラー越しに少女を見て、ガムを噛みながら話しかけてきた。
「はぁ」
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